2025年12月5日(金)

特集:食料危機の正体

2025年2月26日

 メリットの多い田んぼの「土」だが、現在の日本では都市化や減反政策によって田んぼが減少し続けている。肥沃な平野部は、人が住むにしても好立地で、良い田んぼから先に失われやすい。中山間地では農業従事者の高齢化が進み、用水路が維持できなくなりつつある。耕作放棄地は富山県一つ分にもなるという。

 水田のインフラ劣化や省コストへの取り組みの一つとして、田んぼに水を張らない稲作(乾田直播)の取り組みも始まっている。水田のメリットを受けにくくなる一方で、稲作農家の経営の持続性は土の持続性が大前提である。水田稲作の抱えていたメタン排出を削減できる期待もある。土壌と経営の持続性の両立が欠かせない。

満州とウクライナをつなぐ
チェルノーゼム

 世界の小麦の大産地は、一部の地域に偏っている。それは、世界で最も肥沃なチェルノーゼム(黒土)と呼ばれる土壌がある、東欧、北米プレーリー、南米パンパだ。

ウクライナの小麦畑に広がるチェルノーゼム(LIBKOS/GETTY IMAGES)

 戦前の日本は満州、ナチスドイツはウクライナを目指した。そこにはやはりチェルノーゼムが広がっていた。腐植とカルシウムを含む中性の土だが、水資源には恵まれない。秦の始皇帝は満州の土壌ではなく黄土高原を守るように万里の長城を築いた。チェルノーゼムの利用が始まったのは灌漑技術の発達した近代以降だ。

 日本の小麦やジャガイモの多くは、北米のチェルノーゼム地帯から輸入している。1経営体が数千ヘクタールを耕す効率的な大規模農業を目の当たりにすると、日本の農業に勝ち目はなさそうだが、依存しすぎるのは危険だ。実際、日本でもファストフード店のフライドポテトが消えたことがあったが、その原因は天候不順による北米のジャガイモの不作だった。乾燥地で干ばつが起これば、砂漠のようになる。植物の保護がなければ、風や雨でチェルノーゼムは、10年で1センチ・メートルもの速度で失われる。地下水をくみ上げればいいように思うが、やがて地下水は枯渇し、塩類集積の問題も起きやすくなる。中国でも、2022年に『黒土保護法』が制定された。習近平国家主席は、チェルノーゼムを「畑のパンダ」と呼んでいる。肥沃な土は、脆弱性をあわせ持っている。


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