コメを神棚からおろす時──。
これは、私が発行人を務める雑誌『農業経営者』2003年2月号の特集タイトルである。発行後、神主であり弊誌の読者でもある方から「なんてことを言うのか!」とお叱りを受けた。

(WAKO MEGUMI/ISTOCK/GETTY IMAGES PLUS)
これまで私は、メディアの人間として、才覚、経営力に優れた農業経営者や、農業に新たなイノベーションを生み出そうとする若者たちを取材してきた。だからこそ、コメを神聖視し続ける農政への違和感を、批判覚悟で世に訴えたかったのである。
日本では、いまだに「減反」や「高関税」さらには「飼料米」などの政策によって水田あるいはコメを保護している。しかも、自民党をはじめ、あらゆる政党は選挙のたび、農民票欲しさに「小規模で貧しくて弱い農家は保護しなければならない」という〝貧農史観〟に基づく政策を訴え続ける。
だが、足元では農業経営のプロは確実に育ち始めている。彼らの能力、才覚が最大限発揮され、日本の食料安全保障の一助にもなることの一つに、日本のコメ輸出が挙げられる。
和食がユネスコの無形文化遺産に登録されたのは13年のこと。世界では和食人気が高まっている。中国では火を通した料理が定番だが、近年では水産物の消費量も増えている。加えて沿岸部のみならず、内陸部でも、中国人はマグロなどを食べており、刺し身文化も浸透し始めている。刺し身には醤油が必要なように、「コメ」も欠かせないものだ。
筆者の知る中国人の農業関係者によれば、習近平政権の政治的な思惑もあり、「日本米にはカツオブシムシがついており、燻蒸が必要」などと、日本米の輸入には制限があるものの、そうしたことが徐々に緩和されれば、日本のコメを売り込める大きなマーケットが存在していると言えよう。