また2月16~17日にかけて、動画に批判的な投稿はポスト数175,リポスト数1万1931、アカウント数5769であったのに対し、反論や東洋水産を応援する論調はポスト数386,リポスト数6万8018、アカウント数3万8466となり、リポストベースで5倍、アカウントベースで6倍程度、反論・応援クラスタ側が多数となった。(鳥海不二夫 東京大学大学院工学系研究科教授 「赤いきつねと非実在型炎上」Yahooニュース2025年2月20日)
さらに、「ちゃんとCMを見たかどうか」「設問を読んだかどうか」をクイズでチェックし、パスした女性2222人、男性586人を対象にした別の調査では、CMに肯定的な評価をした割合が50%を超え、「気持ち悪い」と答えた15%を大きく上回った。回答傾向に男女差はなく、しかも15%のネガティブな意見の中には今回問題とされた「性的」とは全く別の理由も含まれていた。
いかなるコンテンツでも一定数の「アンチ」は必ず出ること、また、大きな話題にならなかった男性版のCMであっても8%が「気持ち悪い」と回答したことから、多くの一般人は男女問わず、本CMに特異な問題があったとは見做していないと言える。むしろ、ネットでは騒動をきっかけにした「赤いきつね」の購入報告が相次ぎ、各地で売り切れが続出した。(田中辰雄 横浜商科大学教授兼国際大学GLOCOM主幹研究員 「赤いきつねウエブCM炎上事件」SYNODOS 2025年2月24日)(赤いきつね、炎上ものともせずAmazonベストセラー1位に輝く!実店舗でも売り切れ続出「クレーマー稼業がもう限界では?」Prosfie 2025年2月26日閲覧)
社会は少数意見といかに向き合うべきか
本CMを「性的」と問題視した声は少数派で、問題提起は多くの異論と反感を呼んだ。一方で、批判側には過去に受けた性的トラウマやハラスメントのフラッシュバックを訴える声もあった。
前述した調査でも「異性から見つめられて嫌な思いをしたことがある人のうち32.2%が今回のCMを気持ち悪いと感じている。食べている姿を性的に解釈されて嫌な思いをした人では、実に40.6%の人がこのCMを気持ち悪いと感じている」結果が示されている。こうした少数の抗議は、無視されるべきなのか。
結論から言えば、残念ながら「無視されるべきである」が社会では最適解とされつつある。2024年にインターネット上で公開された、東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻の武田史子准教授と同修士課程の森継哉氏による、09年から18年までの日本の上場企業を対象に154件のネット炎上事例について、対象企業の株価反応を分析した「ネット炎上が株式市場に与える影響についての研究」によれば、ネットで炎上した企業は謝罪やコメント削除などの対応をした場合、対応しない場合よりも株価が大きく下落することが明らかにされた。
つまり企業の営利目的で製作されているCMにとって、営利を得られる可能性が最も高い対応、すなわち「無視」が最善手となるインセンティブが生じる。現に今回も、東洋水産側はネットでの炎上に何ら反応を示さず一貫して無視した結果、前述のように「赤いきつね」は売り切れが続出し、株価は炎上前(2月14日)の8521円から、2月19日には9302円に上昇したことで、研究の信頼性を示す事例が積み重ねられてしまった。
経済的利益の影に倫理的問題は無いのか。この批判も残念ながら、強い説得力は持ち得ない。