驚くべき贈収賄事件が中国内陸の湖南省衡陽市で発覚した。市議会議員選挙にあたる衡陽市の人民代表大会の代表選出に際して贈収賄に関わった議員が98%にも上ったというのである。
中国における汚職事件そのものはそれほど驚くべきことではない。その深刻な状況に対して執政党である共産党自身も危機感を深め、習近平政権が成立してから綱紀粛正を図るべく倹約令とでもいうべき「八項目規定」や様々な決まりを策定公布して対処してきた。(「贅沢禁止令効果なし 違反者は2万人 中国メディアがこぞって警鐘」も参照)
ところがそうした矢先に発覚した衡陽市の贈収賄事件の深刻さはこれまでの贈収賄の規模をはるかに超えるものだったために中国で全国的に注目を浴びた。529人の市の代議員のうち518人が贈収賄に関わったとして辞職を余儀なくされたのだ。会議では習近平国家主席が激怒して何度も声を荒げたとされるほどだ。
汚職の根源にある肥大化した官僚機構
さて今回の贈収賄事件を考える前に、事件の起きた衡陽市について少し説明しておく必要があるだろう。地方都市ということでそれが田舎だから影響はさほどない、というわけにはいかない。衡陽市は人口規模からいうと湖南市の省都である長沙市よりも人口が多く、湖南省の14の市(地区級市と呼ばれる省より1級下級の行政単位)レベル行政単位のうちトップで700万を超える人口を有する(2010年の人口調査では714万人)。
愛知県程の人口を持つ行政単位に500人以上の代議員を抱えるということも驚きであり(因みに愛知県県議会議員の定数は103人)、地方自治体では代議員だけでなく、行政府の官僚も抱えることから中国においていかに官僚制が肥大化しているのかその規模からも分かる。中国政治における汚職の根源には肥大化した官僚機構があり、それは中央だけではなくむしろ地方においてより深刻であることが窺えよう。
そしてもう一つのポイントは単に衡陽市の議会選挙の贈収賄というだけでなく、ここから選出されてより上級である省の人民代表大会に参加する省の代議員56人にも贈収賄容疑がかけられ、辞任をしたという点だ。つまり市から省そして最終的には国の議会(全国人民代表大会)への代表選出という一連の政治制度、プロセスにおける「民主的」(中国型の)手続きを形骸化させ、その本質に疑問を生じさせるような事件だったのである。「両会」(全人代と全国協商会議の二つの大きな会議)開催を前に事件が発覚したのはその開催への代表選出プロセスにおいてだったのだ。
そこで今回この衡陽市での発生した贈賄事件を特集として克明にレポートした『財経』誌による記事「衡陽選挙の″ブラックマネー″:百万元賄賂でも落選」を紹介しよう。