科学を無視した枠設定
この資源の主たる分布域は日本海の北海道沿岸である。韓国も87~98年漁期に漁獲を行っていたが、それ以降操業しておらず、日本の底引き網、はえ縄、刺し網などの漁業によって漁獲されている。
資源減少の要因の一つと言われているのが、90年代以降に海洋環境の変化により卵の生き残る確率(再生産成功率)が減少したことである。しかし、同様に要因として強調しなければならないのが取り過ぎ、乱獲である。ある漁業者が証言するように「かつては取れるだけ取っていた」のだ。
そのことはデータにも示されている。下図の青色の線は、この資源の漁獲割合を示している。
10年代初めまで、多くの年で総資源量の15~25%が漁獲されている。黄色の線は、その年の漁獲圧(F)を最適な漁獲圧(Fmsy)で割ったもの(F/Fmsy)で、これが1よりも多いと、漁獲圧が高すぎるという意味で乱獲を意味している。10年代初めまでは最適な漁獲圧の2.5倍から、ひどいときには5倍近くの漁獲圧がかかっていたことがわかる。
日本は97年からスケトウダラについて漁獲の総枠(英語名称の「Total Allowable Catch」から「TAC」と略される)を設けて管理してきた。この漁獲枠は科学者による資源評価に基づく生物学的に許容可能な漁獲量(英語名称の「Allowable Biological Catch」から「ABC」と略される)をもとに決定される。
下図は「科学者からのお勧め枠」であるABCと実際に決定された漁獲枠(TAC)を示したものである。枠が設定された97年以降、14年まで、98年を除き常に「科学者からの勧告」であるABCを大幅に上回った枠が設定されていたことがわかる。
なぜ科学を無視した決定がされてきたか。その一因は漁獲枠決定について定めていた当時の法律(「海洋生物資源の保存及び管理に関する法律」)の抜け穴に求めることができる。同法第3条3項では、漁獲枠の設定は「漁業の経営その他の事情を勘案して定める」と規定していた。
資源も収入も右肩下がりを続ける中、この魚を捕る一部の漁業者団体からは、「スケトウダラはもっといる」、「漁獲制限などもってのほかだ」、「俺たちの経営状態を考えてくれ」との声が上がる。主管官庁の水産庁は、こうした業界団体の声に押され、「漁業経営におけるスケトウダラへの依存度が高い」(水産政策審議会第55回資源管理分科会(2012年)資料「24年漁期 TAC(漁獲可能量)設定の考え方」)という理由で過大な漁獲枠許容し続けてきたのである。

出典:水産庁(2011)「24年漁期 TAC(漁獲可能量)設定の考え方」 写真を拡大
結果として乱獲は放置され続け、多くの漁業者が「経営が成り立たない」とスケトウダラ漁を辞めていった。結局、誰の得にもならなかった。