2025年12月5日(金)

トランプ2.0

2025年3月19日

「法の順守」を求める声明も

 トランプ執政糾弾の動きは、法曹界にも広がりつつある。

 オハイオ州トリード大学のベンジャミン・デイビス法律大学院名誉教授はこのほど、法曹関係のオンライン・メディア「JURIST News」上で、トランプ執政を一層激しい言葉で非難するとともに、広く一般市民にも「独裁体制告発」のための決起を求める公開状を投稿した。

 この中でデイビス教授は、トランプ氏について「大統領就任式で合衆国の法律を遵守し、かつ忠実に行使することを誓約したにもかかわらず、議会が設立した行政機関の解体に乗り出し、議会が承認した予算の歳出を否定している」「ある種のクーデターを企てようとしていることは誰の目にも明らかだが、彼は国王として選ばれたわけではなく、行政責任者であり、法の上に立つことは許されない」「国内在住外国人たちに対する冷酷な処遇は(世界に門戸を開いた)自由の女神を汚辱するものである」「法廷判断を無視し、最貧層市民たちのための生活保護、医療補助計画を凍結するなど行状は惨憺たるものがある」などと指摘した上、「貴殿は同調を拒む組織やメディアを圧殺しようとしているが、私は一市民として決して屈することなく、ここに断固として異議申し立てする」と結んでいる。

 相前後して、弁護士約15万人が加盟する全米最大組織「米国弁護士協会」(ABA)も、ウイリアム・ベイ会長名で、トランプ政権に「法の順守」を求める特別声明を発表した。

 声明(2月10日付け)は、トランプ政権が①憲法が保障する米国内出生者への市民権付与を否定した②政府独立機関「国際開発局」(USAID)解体に乗り出した③「多様性・平等性・包括性(DEI)」プログラム支援組織・個人の摘発を開始した――などの具体例を挙げ、これらの行為が「米国そのものの弱体化につながる」と断じた上で、全弁護士に向け「一致団結して政府に法の順守を促そう」と呼びかけている。

 こうした動きが出てきた背景には、①三権分立の下、本来、行政府の暴走に歯止めをかける役割を果たすべき議会が、上下両院ともに“トランプ党”に成り下がった共和党に牛耳られ、機能せず、事実上、民主主義政治の崩壊を招いている②SNSの爆発的普及により間断ない情報洪水にさらされているネット世代が政治情勢についての的確な判断力を蝕まれ、タイムリーに政府に影響を与えるほどの市民抗議行動を組織しにくくなっている――などの現状認識と危機感がある。

「待った」をかける連邦地裁の判断

 実際、今次トランプ政権の専横的執政は、「米国政治史上最悪」(ニューヨーク・タイムズ紙)ともいわれているにもかかわらず、1960年代の市民権運動、70年代のベトナム反戦のような全米の各都市、大学で吹き荒れた大規模抗議集会などの動きはこれまでのところ、ほとんど見受けられない。

 米国は今、政治的「アパシー」(無気力)状態に陥っているとさえ言える。しかしそれは、善悪を問わず意表を突く大胆な政策を洪水のように打ち出し、反対派を目くらまし状態に追い込むトランプ政権の「Flood Zone」戦略(Wedge オンライン2月19日付け筆者記事「もはやメディアもお手上げ!トランプが繰り出す「Flood Zone」戦略、乱発される大統領令に打つ手はないのか」参照)を勢いづけるに過ぎない。

 ただ、こうした状況下で、かろうじて「司法」が、トランプ政権のこれまでの超法規的政策・方針について、歯止め役を果たそうとしているのはせめての救いだ。


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