創薬ベンチャーとそれを支える
創薬エコシステムの活性化が鍵
「創薬を担うプレーヤーが互いに連携し合うオープンイノベーションの時代に突入した。革新的新薬を生み出すためには、創薬ベンチャーとそれを支える創薬エコシステムの活性化が不可欠である」
こう語るのは、湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)を運営しているアイパークインスティチュート社長の藤本利夫氏だ。同氏は、胸部外科医としてドイツのフライブルク大学、米国のメイヨークリニックなどでの勤務経験を持つ。
「日本の製薬業界の問題は、半導体業界が抱えている問題と似ている。製薬業界も20年ほど前までは、1社で研究開発から製造までを担う体制が主流だった。しかし、多様な新規技術の活用が求められる今は、新薬のタネ(シーズ)の創出を担う主体が、製薬企業からアカデミアや創薬ベンチャーにシフトしている」
藤本氏の言う「創薬エコシステム」とは、製薬企業や創薬ベンチャー、ベンチャーキャピタル(VC)、そしてアカデミアが連携して、ヒト・モノ・カネの三要素をつなげる仕組みである。世界に先駆けて創薬エコシステムを構築し、多くのイノベーションをつくり続けているのが米国だが、競争力の源泉はボストンだ。
ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学をはじめ大規模な病院を中心に、10年頃から世界の大手製薬企業など創薬を担う様々なプレーヤーが集結し、急速に発展。今や世界一巨大なライフサイエンスクラスターを形成し、世界中から優秀な人材が集まっている。いわば、シリコンバレーのライフサイエンス版だ。
新型コロナワクチンを開発したことで知られる米モデルナ社も、ボストンを拠点として生まれた創薬ベンチャーだった。つまり、日本でもボストンのような創薬エコシステムを作ることが喫緊の課題なのだ。
だが、日本で創薬エコシステムをうまく機能させることは容易ではない。武田薬品工業からスピンアウトし24年に新規株式公開(IPO)を果たした創薬ベンチャー、コーディア セラピューティクス(神奈川県藤沢市)代表取締役の三宅洋氏はこう語る。
「医薬品研究開発の成功確率は、極めて低く、研究から販売までに至る確率は1%前後だ。それまでに10年以上の時間と膨大な研究開発費用が必要になる。例えば、一つの抗がん剤シーズのポテンシャルが判断できる臨床試験に移行させるには最低でも数十億円ほど必要だ。既に多数の成功例がある米国はリスクマネーに対する供給量が大きいが、日本はまだその流れができていない」
そうした中、政府は24年7月の創薬エコシステムサミットで、日本を「創薬の地」としていくことを掲げた。経済産業省の「創薬ベンチャーエコシステム強化事業」においては、10年間で3500億円の予算で、国が認定した一定の要件を満たした国内外のVCが、創薬ベンチャーに出資すると、その額の2倍を上限として創薬ベンチャーに補助金を出す。経産省生物化学産業課課長補佐の岩渕雄太氏によると「最終的に100社ほどの創薬ベンチャーへの支援を通じて、合計1兆円のExitを実現し、資金と人材の循環を創出することが目標」だという。

