2025年12月5日(金)

Wedge REPORT

2025年4月4日

設定委員会で起きた〝炎上〟

 1995年ごろ筆者は青森営林局で、恐山山地(おそれざんさんち)森林生態系保護地域の設定作業に従事した。当時管内は、ブナ林をはじめとする天然林や猛禽類やクマゲラなどの貴重な鳥類の保護活動が活発で、マスコミの注目度も高かった。

写真 1 恐山山地森林生態系保護地域(出所:東北森林管理局下北森林管理署のHP)

 設定委員会ともなると新聞記者や放送関係者が押し寄せ、公開での開催を要求した。別に悪いことを議論するわけではないので公開してもいいと思ったが、担当部長の指示は非公開、会議後の記者レクも委員長が1人だけで行う、発言についての委員名は明かさないとのことだった。

 当局としては、業界関係者と一体になって自然保護側を抑え込もうとしている雰囲気をマスコミに悟られたくなかったし、業界側委員が後でマスコミの批判にさらされないように配慮したのであろう。

 ところが設定委員会終了後の記者レクでハプニングが起きた。設定委員長は大学教授(地質学)で真面目で公正な方だったが、委員会での発言について委員名を付して説明を始めた。

 驚いた部長は筆者にメモを入れ、委員長に委員名を付さないように伝言するよう指示した。しかし、記者たちの目の前でそのようなことを伝えれば、記者たちが騒ぎ出すのは火を見るよりも明らかなので、筆者はあえて知らん顔を決め込んだ。

 すると業を煮やした部長は自ら委員長に委員名は出さぬようにと耳打ちしたのだ。委員長は顔に動揺を見せ、急に説明から発言者名がなくなったのを知った記者たちは、一斉に部長に対して抗議の声を上げた。いわゆる大炎上となってしまった。

 記者レク終了後に委員名は記事に載せないでくれと頼めば事足りると思うのだが、お上の方針に忠実な人ほど完璧主義で融通が利かない。そもそもこうした設定委員会などは原則公開でやって、堂々と賛否の意見を交わすべきである。当局が自分たちの都合のいいように操作しようと思うから、変なことも起きる。面倒な記者レクも必要ない。

 当局の方針を是認するだけの御用委員会ならやらなくてもよい。それでは不足だと当局が判断するから有識者の意見を聞くわけだ。なのに都合の悪い意見を封じようとする。多くの意見を聞きましたというお墨付きが欲しいのだ。役人のこうした悲しい性(さが)、やったふりは公正さを覆い隠し、スピード感のある行政を妨げるものである。

 のちに朝日山地森林生態系保護地域(山形県・新潟県)を設定したときは、設定委員会は公開で行った。

森林生態系保護地域をめぐる混乱

 当初予定していた全国26カ所に森林生態系保護地域が設定され、とりあえず原生的天然林伐採のリスクは回避された。ところが森林生態系を維持していくためには適切な管理が必要で、単に伐採しなければすむというものではなかった。

 伐った、出した、売ったといった荒っぽい林業に慣れ親しんできた国有林職員にとって、理学系(生態学・動植物学)のデリケートな理論や、「この自然は自分たちが守ったんだ」という自負に満ちた活動家・地域住民に対応するには、知識も経験もまったく不足していた。そのため様々なボタンの掛け違いやトラブルが発生する。


新着記事

»もっと見る