2025年12月5日(金)

Wedge REPORT

2025年4月4日

湿原を攪乱

 吾妻山周辺森林生態系保護地域(山形県)の湿原で木道の修理をした。工事は、営林署の治山係が担当して国有林内で工事実績のある土木業者が受注した。

 湿原の保全はデリケートなものだから、人力でていねいにやるべきところだが、重機を使った。尾根筋にある湿原まで重機で資材を引き上げたため、重機の走行路で植生を破壊した。また木道の設置も重機で床掘(とこぼり、地盤の土砂を掘り下げる)をしてしまう。さらに湿原入口の水分が多くて歩きにくいと、トレンチ(溝)を切って排水してしまった。

 湿原の性質を知らずに工事をしたため、肝心な水分を抜いて乾燥化を招きかねない結果となった。復旧に当たっては専門家からなる検討委員会を立ち上げ、木道は廃止して湿原を迂回する歩道を新設した。

写真 2 その後の湿原(出所:東北森林管理局HP)

 営林署内での意思疎通の不足もさることながら、当時の国有林職員の植生保全等の知識の不足が招いた必然的結果だった。

生態学的知識の不足

 森林生態系保護地域がらみのトラブルは、多くの現場で起きた。保護地域内と知らず樹木を収穫してしまう事案も発生して、大慌てしたこともある。単なる担当者間の意思疎通の不足だけでなく、署長をはじめ職員の生態学的分野への認識の甘さが露呈したのである。

 まず現場のトップから、自然保護や生態系保全についての管理技術をしっかり教育すべきであった。今でこそ森林・林業と言うようになったが、当時は林業優先がしみついていた。せっかくよい器を作っても、魂が入らなければ意味がない。

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