入林問題
白神山地で起きたのが入林問題である。白神山地は青森営林局と秋田営林局(現在はどちらも東北森林管理局)にまたがっていたため、それぞれの局で設定委員会を立ち上げて設定した。本当は両局いっしょにやればよかったのだが、別々だったので管理方法の細部には違いが生じていた。
中でも入林については、秋田側が植生保護のため原則禁止しており、青森側は決めてなく容認されていた。ところがある時両局で違いがあるのはおかしいということでいきなり青森局でも入林禁止の看板を立てた。それを見た青森側の自然保護関係者たちから猛然と反対の声があがったのである。
そもそも国有林でも民有林でもその森林の生育物を採取したりしなければ、立入りは不法行為には当たらない。昔からマタギや釣り人、登山家たちは自由に出入りしていたので、怒るのは当然だ。
ところが営林局も無制限な入林は森林生態系に悪影響を及ぼすと、攻守が逆転したような論争になってしまい、揉めにもめた挙句27ルートに限り入山を認めることで落ち着いた。法律による規制ではないが、当事者同士の申し合わせで自主規制をするのはそれなりに民主的・現実的な解決手法だった。また、自然保護関係者の中でも厳正保全派と入林容認派ができて、その対立に当局が巻き込まれて難儀した。
魚釣り
入林とも絡むのだが、マナーの悪い釣り人が白神山地の渓流でイワナなどを釣り、林内で焚火をして焼いて食べる。当然だが自然保護側からの批判が強く、規制を求められた。
しかし、釣りを規制する制度がない。渓流の魚であっても森林生態系を構成する要素であるから、一元的に規制できる法律があればよいが、残念ながらわが国では自然公園法、自然環境保全法、森林法、漁業法などの合わせ技でしかできない。漁業法では、禁漁区の設定ができるが、漁業の振興のためという本来の目的にそぐわない。
結局、白神の場合は、登山ルートの設定したことにより釣り人の行動も実質的に規制されることになった。
朝日山地森林生態系保護地域の設定に当たっては、あらかじめ渓流釣りの団体の代表から意見を聞いて「マナーの向上について自主的に指導、ボランティア巡視等の協力を行う」ことを管理計画に書き込み、協力関係を築いている。
米軍ジェット機の飛行訓練
東北地方の山岳地帯上空では、三沢基地の米軍ジェット戦闘機が飛行訓練を行っている。それらが発する騒音によって、イヌワシ、クマタカなどの猛禽類をはじめとする鳥類の繁殖に影響があるとして、白神山地上空での営巣期の訓練を中止するよう自然保護団体から要望が出された。
これを受けて、青森営林局と環境省東北地方環境事務所が三沢基地の米軍に申し入れを行った。その回答がどのようなものであったのか覚えていないが、訓練飛行が抑制されたようではない。その後、筆者が葛根田川・玉川源流部森林生態系保護地域(岩手県・秋田県)で4月初旬にクマゲラの調査で入林したとき、編隊のジェット機の爆音と大きな衝撃波を聞いて驚いた。
しかし、クマゲラは変わりなく鳴いてドラミングをしていた。鳥たちにとって騒音は日常的なことになっているのだろうが、営巣・繁殖に影響があると考えるのが自然だろう。
