航空機が運航できない可能性も
例えば、先島諸島を巨大津波が襲う危険性が切迫している事態であれば、現在の避難計画に問題は無い。自然災害は特定の「意図」を持っていないので、避難先の九州・山口を含む日本全国が同時に大規模な自然災害に襲われる最悪の事態は考えにくいからだ。
しかし武力攻撃では、攻撃側は相手に勝つために相手に最大のダメージを与える(相手にとって最悪の)事態を「意図的に」作為する。攻撃側が、日本が先島諸島からの住民避難しか考えていないと分かれば、それ以外の地域の住民を意図的に攻撃して日本国民に恐怖を与え、戦意喪失を狙うだろう。
また、現在の先島諸島からの避難計画では輸送の主力は航空機となる。自然災害からの避難であれば問題は無いが、現在の武力攻撃では相手国の軍官民のシステムに対するサイバー攻撃は常態だ。昨年末に日本航空(JAL)がサイバー攻撃を受けて、欠航や遅れが出たことは記憶に新しい。
台湾有事の際には航空機運航システムがサイバー攻撃を受けるだろう。このため、航空機の使用が制限される場合を見据えた船舶による避難も計画に組み込む必要がある。この際、住民の避難に使用できる高速船を国が調達し、平素から離島に配備しておく対策も重要だ。
武力攻撃では、攻撃側の「意図」を読み、最悪の様相でも被害を少なくできる避難要領を編み出す必要がある。政府は今後、現在の先島諸島からの避難計画をベースとして、台湾有事における最悪の様相にも対応できる計画へと発展させる必要があるだろう。武力攻撃からの避難を自然災害からの避難と同一視することは危険だ。