2025年4月18日(金)

21世紀の安全保障論

2025年4月12日

避難先の九州・山口8県は“安全”なのか

 先島諸島は台湾に地理的に近い戦略的要衝であり、複数の自衛隊の駐屯地が所在し、周辺海空域では平素から中国軍が訓練を繰り返している。このため、台湾有事の際には中国軍のミサイル攻撃や着上陸侵攻を受ける可能性があり、ここから住民を避難させるのは当然だ。それでは、先島諸島の住民が避難する九州・山口8県は「安全」なのだろうか。

 まず、九州・山口8県には全て複数の自衛隊の駐屯地や基地が所在し、長崎県と山口県には米軍基地も所在する。加えて九州・山口は、南西諸島や東シナ海での自衛隊や米軍の作戦を支える重要な基盤でもある。このため、台湾有事の際には中国軍のミサイル攻撃等を受ける可能性がある。

 また、九州・山口8県が策定した受け入れ計画では、先島諸島から避難した住民をホテルや旅館などに収容とする予定となっている。しかし、そこが攻撃されない保証は無い。

 ウクライナでは住民の避難施設がロシア軍のミサイル攻撃を受け、多数の住民が犠牲になっている。こうした点を踏まえれば、ホテルなどの避難施設も安全とは言えない。

 それでは、どのような施設が住民の受け入れ先として適切なのであろうか。最も適切なのは、多くの人が長期間居住可能であり、ミサイル攻撃にも耐えられる地下施設である。それは、単なる地下駅舎や地下街ではなく、防爆扉、空気清浄装置、物資の備蓄、宿泊施設、医療施設などが組み合わされた施設である。現在、こうした地下施設は九州・山口8県のみならず、日本国内には存在しない。

 既存の地下駅舎や地下街の改修が急務となる。ただ、そうした整備には時間も費用も多大にかかる。

 次善の策として、多くの避難した住民を少数のホテルなどに受け入れるのではなく、多くのホテルなどに少人数ずつ分散させて受け入れ、攻撃を受けた場合の被害を少なくすることが考えられる。加えて、攻撃を受ける可能性が高い都市の中心部を避けた地域で住民を受け入れることも効果的だ。

台湾有事で起こり得る“最悪”の様相

 台湾有事に際して、先島諸島の住民を避難させることは当然だ。しかし、先島諸島以外の地域、特に離島では住民避難の必要は無いのだろうか。この疑問に答えるためには、台湾有事の様相を、最悪のケースを含めて描き出す必要がある。

 台湾有事の際、米国が武力で介入すれば、台湾有事は台湾+米国vs中国の武力紛争へと拡大する。この際、多くの米軍基地を擁する日本を中国が攻撃すれば、台湾有事は台湾+米国+日本vs中国の武力紛争となる。現在の先島諸島からの住民避難は、この様相を念頭に置いて計画されている。

 しかし、この様相において攻撃を受ける可能性がある離島は先島諸島だけではない。中国が米本土等から来援する米海軍・空軍の台湾への接近を西太平洋で食い止めようとすれば、鹿児島県の薩南諸島(種子島~与論島)、沖縄県の大東諸島、東京都の小笠原諸島も重要な拠点となるため、中国が占拠を狙う可能性がある。

 さらに、台湾有事における最悪の様相は、ロシアと北朝鮮が中国と軍事的に呼応するケースだ。これは、中国のみならず両国にとっても、台湾有事は東アジアから米国の政治・軍事的影響力を排除し、地域で自国に好都合な国際秩序を構築する好機となるからだ。

 この場合、ロシアや北朝鮮が中国と共に日本の米軍基地、自衛隊基地などをミサイル攻撃したり、離島を占領して自国領に組み込んだりする可能性は否定できない。この場合には、奥尻島、利尻島、礼文島などの離島からの住民避難も絵空事ではない。


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