作戦4 陰謀論を使え
シグナルのグループチャットに誤ってゴールドバーグを招待したウォルツは、保守系の米FOXニュースとのインタビューの中で、「私は陰謀論者ではない」と前置きをした上で、「大統領について嘘をつく人物が、誰かの電話番号を得て、グループに入り込んだ」と語った。
ウォルツは、ゴールドバーグが何らかの方法を用いて、トランプ政権の高官が参加したチャットグループに潜入してきたと言いたいのだ。誰かがゴールドバーグを助けて、チャットグループに潜り込ませたという含みも持たせた訳である。陰謀論と絡ませてMAGA(マガ Make American Great Again 米国を再び偉大にする)運動を支持するトランプ支持者を納得させる作戦に出たのだ。
ウォルツの陰謀論者ではないという前置き自体が、以下に自分が述べることと陰謀論が関与していることを示唆したものだろう。
ちなみに、トランプを応援する新興の極右メディア「ニュースマックス」のグレッグ・ケリー氏は、シグナルゲートに関して「闇の政府(Deep State)によって、ハッキングされた」と述べ、背景には陰謀論があると語った。
作戦5 決して謝罪するな
少々古い話になるが、筆者は滞米中、議会公聴会を度々傍聴しに行った。その一つが、リコールに関するトヨタ公聴会(2010年)であった。当時、豊田章男社長は非を認めて、公聴会で謝罪を繰り返した。日本人にとって謝罪は美徳の意味が含まれる。
これに対し、トランプは常日頃から「謝罪=弱さ」とみている。つまり、彼の「プレーブック」には謝罪はないのだろう。
ホワイトハウスの報道官で、非難に負けない「丈夫な胃(iron stomach)」を持っていると言われるキャロライン・レビット氏は、決して過ちを認めて謝罪しない。レビットはグループチャットの会話の中に、「機密情報は含まれていなかった」(作戦1)ので、謝罪する必要はないという立場をとっている。
作戦6 米国民の目を逸らせ
トランプは突然、米NBCニュースのキャスターやホワイトハウスの記者団に対して、大統領職の「3期目」について語り、意欲を示した。実際は、大統領職は米憲法で2期8年までに制限されているが、3期目を可能にする方法があると一歩踏み込んだ発言をして注目を集めた。
なぜ、このタイミングで3期目の話題を持ち出したのか。率直に言ってしまえば、米国民の目を機密情報漏洩の話題から逸らすためである。
以上のコミュニケーション作戦は、倫理的並びに道徳的に反するものも含まれている。トランプがどのようにわれわれを操作しようとしているのかという視点で、彼を眺めてみると多くの気づきがあるだろう。