第二に、米側の姿勢の変化の程度についても、トランプ政権の欧州に対する攻撃的な姿勢とともに、ロシアに対する宥和的な対応が目立つ。トランプ政権は、早々にロシアとの経済関係の再構築に動いていくことを目指しているかのようであり、ロシアの更なる侵攻・侵略があっても微温的な対応しかしないのではないかとの疑いが拭えない。
一方、トランプ政権の中国に対する対応については、どこかの段階で「大国間の手打ち」のようなことが起こる可能性は排除されないが、当面は、警戒心は強そうである。台湾、韓国の安全保障上の懸念についてトランプがどのような対応を示すかはまだ明らかではないが、石破茂首相の訪米時に示されたトランプの日本に対する姿勢は、欧州同盟国に対する姿勢とは全く異なったものであった。トランプのロシアと中国に対する姿勢の相違が欧州とアジアの同盟国への姿勢の相違に繋がっているとも考えられる。
このように、現状を見れば、アジア同盟国に比して、欧州同盟国の方が安全保障体制の再構築に動く必要性により強く迫られていると考えられるが、上記の論説も指摘するとおり、核戦力という点では、欧州の場合、英国とフランスという核兵器国を抱えており、それを活用する余地がある。
容易なことではないが、英仏の核戦力を活用する形で安全保障体制を再構築するのであれば、既存の核不拡散体制の枠内で対応することができる。一方、こうした既存の核戦力を持たないアジア同盟国では、少なくとも現在のところは、(比較の問題として言えば)欧州同盟国ほど切羽詰まった状況にさらされているわけではない。
日本としての対応策
トランプの行動によって核拡散防止条約(NPT)を中心とする核不拡散体制にストレスがかかっているのは事実であるが、核不拡散体制がある時に一気に崩壊するわけではないだろう。核不拡散体制の衰退がどれほど速いスピードで進むかは、米国が拡大抑止の提供と核不拡散がコインの表と裏の関係であることを認識して行動するかどうかにもかかっている。
今後、トランプ政権の拡大抑止へのコミットメントを撤回する姿勢が東アジアにおいても顕現化するのであれば、日本としても対応策をとっていかなければならなくなる。日本として現在の状況を座視してはならず、反撃能力をはじめとする通常戦力の整備、関係国との安全保障面での連携強化などを進めると共に、逆風下にあっても日米安保体制を維持・強化する努力が必要である。
