土着信仰への回帰
筆者が行き来する中南米や南アフリカでは近年、土着信仰への回帰が静かに進んでいる。15世紀末に始まる植民地化、欧州中心の考え方が次第に緩み、足元を見つめなおす試みが、政治や運動ではなく、個々の心の中で広がりはじめている。そんな個々の心を「鹿の国」の映像がくすぐるのではないか。
そんな話をすると、弘は「なるほど、すごくよくわかります」と応じこうつづけた。
「映像だからできたんですけれど、この世界を文字にすると、理屈に合わないことだらけなんです。でも、その信仰はずっと日本社会の生活の根底に生きていて、それが明治以降になって、一度断絶した。そして西洋と肩を並べようと、ずっとやってきた。でも、いまの社会を見ていて、それは違うよねって思う人が増えてきたんじゃないでしょうか。答えは外にはないんだって気づいて」
外にないのなら、自分たちの足元を見てみよう。そんなムードが広がっているのか。その足元にある「何か」を、作品の中の鹿が体現していたのかもしれない。