一致しないウクライナ派兵へのスタンス
3月27日にパリで開催された欧州主要国首脳会議はウクライナへの兵力派遣で一致せず、英仏を中心とする有志連合諸国の派兵にとどまることになった。この軍隊は具体的にどんな形で派兵されるかも決まっていない。
派兵される欧州兵力が平和維持機能を持つわけでもなく、また国境沿いに駐留するわけでもない。ましてウクライナ軍に代わるものでもない。戦略的にもともとウクライナ領と確認できる地域にウクライナ軍と駐留し、大都市や不安定な場所でロシアからの攻撃の警戒と抑止となることが期待されているに過ぎない。
そもそも戦局と停戦のための段取りはどうなっているのか。それが明確でない限り、ロシア軍と戦うための軍隊ではないので、欧州軍の派遣は本格的にはできない。
スウェーデンやオランダは、ロシアとの衝突の場合の派兵にはアメリカの支援が条件だと主張した。ドイツとイタリアも派兵には懐疑的で今のところ傍観者の地位を甘受する姿勢だ。軍事的コミットとなると、ポーランドやトルコも重要だが、それらの諸国の役割分担も明確ではない。
今のところ頼れるのは米露間の交渉だけというのが現実だが、プーチンはそのなかでゼレンスキーに交渉権はないと断言する。ゼレンスキーは民主的な手法で選ばれた大統領としての正当性に欠けており、交渉資格はない、ウクライナで国連監視の下で民主的な大統領選挙の実施が先決だとプーチンは主張する。
消極的なイタリアやハンガリー
欧州安全保障・防衛政策の歴史構造的な最大の問題は各国間の脅威認識のギャップだ。ウクライナ支援についても欧州諸国の危機認識とウクライナ支援の姿勢のバラツキがある。
3月20日に開催されたEU首脳会議は、ハンガリーのオルバン首相以外の加盟国⾸脳は定期的な⽀援継続の⽅針で合意した。しかしカーヤ・カラスEU外交安全保障上級代表(外相)提案の400億ユーロのウクライナ軍事支援には同意が得られなかった。オンラインで参加したゼレンスキー大統領が要請する砲弾調達のための50億ユーロの軍事支援についても一致しなかった。
ロシアの脅威を歴史的に肌身で経験してきたポーランド、バルト・スカンジナヴィア諸国は積極的なウクライナ支援派だ。これに対してトランプやプーチンと信条が近く、親しい関係にあるイタリアのメローニ首相やオルバン首相はウクライナ支援に消極的である。
とくにオルバンはこれまでにも再三ウクライナ支援には苦言を呈してきた。ウクライナはロシアに屈するべきだといわんばかりの発言も行った。EU議長国であった昨年7月には、オルバン首相がウクライナとロシアを訪問し、ウクライナ停戦のための仲介を独断で進めようとした。
その内容はロシアに有利な内容で、もともとオルバン首相はその後も「ウクライナの勝利はない」と繰り返してきた。3月6日の首脳会議でも、「ブリュッセル帝国(EU)はウクライナを助けようとしているのではない。植民地化しようとしている」、「ウクライナを支援し防衛費を増額することは欧州を破滅させる」と毒舌を極めた。
