イタリアの消極的は姿勢も明らかだ。3月12日の欧州議会では、メローニの所属するファシスト政党「フラテリ」が「無条件で揺るぎないウクライナ支援」のための議会決議案に反対した。先のカラスの400億ユーロのウクライナ軍事支援提案めぐっても、とくにイタリアとスペインは「決定は時期尚早だ」として、米露の間での「停戦に向けた前進があるかどうか、現時点では議論を⾒守る」という立場だった。
EU「再軍備」計画
他方でEU自身も軍事防衛面で自立しなければならない。「ロシアが今後3年から5年の間にEUの防衛能力を試す可能性がある」と各国諜報機関による観測が流布しているためだ。
フォンデアライエン委員長は3月4日、EU加盟国の防衛力強化のため、およそ8000億ユーロ(125兆円)規模の「再軍備計画」を発表した。その計画では欧州委員会は、EUが定める防衛費支出の財政規律の基準を緩和し(国内総生産〈GDP〉の1.5%まで財政赤字を容認)、各国の防衛費増加を促進する。それによって6500億ユーロを防衛強化に振り向け、1500億ユーロを加盟国への防衛産業に融資する新たな枠組みを設立するとした。調達した兵器のウクライナ支援への転用も可能だ。
先の3月20日の首脳会議の前日、欧州委員会は20頁の「2030年に向けた準備」と題する再軍備を骨子とする防衛政策文書を発表し、今後5年間の安全保障と防衛産業の強化に向けた立法文書も発表した。2030年を目標年としたのは、先に述べたロシア脅威の観測を基礎にしてのことだ。
カラス外相は、「ロシアや中国を含む権威主義国家はますます攻撃的になり、トランプ率いるアメリカはヨーロッパからの離反を表明している」と危機感を語った。ロシアの脅威と露中の接近の矢面にヨーロッパはさらされ、そうした中で、アメリカの欧州からの撤退の可能性は欧州の安全保障・防衛上の強化と自立を不可避とするという認識だ。
とくに軍装備の強化・一本化と、技術・生産の自立が強調されている。加盟国は一国安全保障の発想から欧州全体が一枚岩となっての防衛力、しかも自前の防衛力強化が喫緊の課題となっているという認識だ。
フォンデアライエン委員長も、「歴史に先を越されてはなりません」「2030年に向け再軍備を行い、信頼できる抑止力に必要な能力を開発します。今すぐ行動する必要があります」とひっ迫感を伝えた。
欧州にしがらみつく「財政」という課題
こうした軍事防衛のテーマは投資資金と技術競争の議論だ。各国の財政事情とも絡んでいる。その意味で言えば、EUは冷戦終結以後この分野での欧州の支出はずっと厳しい状況であったといった方がいい。その理由は、EUが域内の平和と繁栄を目指すデモクラシーを理念として掲げており、軍事防衛費よりも社会保障・経済投資を優先するからだ。
フランス、スペイン、イタリア、ポルトガルのような西・南欧諸国はロシアから遠く、脅威感はない。またこれらの諸国の財政事情は厳しい。
フランスはここ数年欧州中銀(ECB)から共通通貨発行の条件である財政赤字の上限を超えていることで再三勧告を受けている。したがってスペインとイタリアは厳密な意味での軍事防衛費用を増額しないですむ予算優遇措置を可能にするような防衛費の拡大解釈を希望した。スペインのサンチェス首相は、サイバーセキュリティに関する全費用を気候変動安全保障として防衛費に含むことを、イタリアのメローニ伊首相は沿岸警備隊の供与や競争的投資も防衛費として計上できるように欧州委員会に主張した。
欧州再軍備のための資金調達をどうするのか。これまでも軍事支援のために、EU内のロシア凍結資産の利息分をウクライナ支援に使ってきた。今後はその元本に手を付けていくとこまで議論されている。
