2025年12月5日(金)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2025年5月1日

心しておくべき2つのこと

 その他にも2点、赤沢氏には留意していただきたいことがある。1つは、仮にベッセント財務長官を相手に、日本の要求を全部呑ませることができそうになっても、警戒を怠らないことだ。

 現在のホワイトハウスは、通常の組織の論理では動いていない。仮に、ベッセント氏が日本の事情をよく理解して最大限に譲歩してきたとしても、譲歩しすぎの場合は次の段階で全部がちゃぶ台返しを食らう危険がある。

 少なくとも、前回の交渉にはトランプ氏本人が出てきているのだから、交渉の大筋はやはりその大統領の意向に沿った形を整えたほうが、最終的には落とし所にたどり着けるはずだ。ベッセント氏の背後にいる大統領の存在を計算しつつ、冷静な落とし所探しが必要ではないかと思われる。

 もう1つは、トランプ氏は「自分に対する対策を他国同士が調整する」ことを嫌う。これは、大統領の性格というよりも、やはり支持者への政治の見せ方を意識しているからだ。一対一で敵味方をはっきりさせつつ、味方の場合は条件交渉で合意点へ導く。そのような姿を有権者に見せることで政治を進めるというスタイルとも言える。

 この間、石破茂首相はベトナムやフィリピンでトランプ氏の関税への対策について、話し合っている。具体的な合意もできたようだ。また中国は当面、米国産に代わって日本からの輸入を増やすとしている。

 こうした「アメリカ以外の国同士の協議」については、一切知らぬ存ぜぬで通すべきだ。複数の国が話し合って一緒にアメリカを敵視しているということになると、支持者は非常に反発する。

 政権もそうした支持者の心情に沿った行動を取りがちであり、そうなると収拾がつかなくなる。赤沢氏としては、とにかく話題にしないことが得策となろう。

リアリズムでの対処を

 いずれにしても、市場の強い抵抗と支持率低下により、トランプ政権は実務的な方向への転換を図っている。その一方で、コア支持者の強い情念に対して、現状否定の行動を見せ続けなくてはならない宿命も追っている。

 その緊張感のメカニズムを冷静に見極めたうえで、極めて高度なリアリズムで対処する。これが石破政権、そして赤沢代表に求められる姿勢である。

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