複雑なエネルギー市場
トランプは「掘って、掘って、掘りまくれ」と大統領選のキャンペーンでは何度も発言し、就任直後化石燃料増産も打ち出した(「【EV補助金打ち切りはマスクのため?】トランプが就任から次々に打ち出すエネルギー政策が”共和党ファースト”な現実」)。4月8日には石炭増産支援の大統領令も出した。その結果、化石燃料生産量はどうなったのだろうか。
石油・天然ガス生産企業にとっては、増産により価格が下落するのであれば、元も子もない。シェールオイルの生産コストは、生産地により異なるが、平均バレル当たり61ドルから70ドルとされる。掘った結果売値が下がるのであれば、掘らない。
エネルギー価格と生産量を決めるのは市場だ。図-4が示す通り、米国のエネルギー生産量は、共和党、民主党政権にかかわらずシェール革命以降増え続けている。政策が化石燃料生産量を左右する余地は小さい。
米国のガソリン価格の推移は図-5の通りトランプ就任後、わずかの下落を示した。大統領令の効果はすぐには出ないにせよ、生産量もほぼ横ばい。
原油価格の低迷を受け原油生産稼働リグの数も、コロナ禍からの回復はあるものの増えてはいない。3月の石油の稼働リグ数は昨年同期比4%減だ。
ガソリン価格の下落は、原油価格を反映したものだ。共和党、民主党政権ともにエネルギー政策で、化石燃料の生産や価格をコントロールできたことはないと言ってよい。大統領といえども市場を動かすことは簡単ではない。「掘って、掘って、掘りまくれ」の効果は出ていない。
トランプにより支援された石油メジャーの株価は上がったのだろうか。トランプ就任後は堅調に推移していた石油メジャーの株価は最近になり低迷している。
トランプ就任時と中国との関税交渉の結果が発表されダウ平均株価が1160ドル上昇した5月12日の終値を比較すると、石油大手株は値下がりしている。エクソン・モービル株はマイナス2.1%と比較的下落幅は小さいものの、シェブロンはマイナス10.5%、コノコフィリップスもマイナス11.5%とダウ平均よりもパフォーマンスが悪くなっている。石炭会社の株価も、トランプの支援にもかかわらず値を崩し、ピーボディーエナジーの株価はマイナス25.4%、ウォリアーメットコール、マイナス19%と市場の評価は厳しい。
自動車関税、相互関税の先行きはまだ不透明であり、市場のトランプ政権の評価も定まらない。トランプの政策はこれからどう動き、日本経済、雇用、給与にどのような影響を与えるのだろうか。まだ分からないが、米国内では今のところ、政策の効果は見えていない。



