詐欺話の筋書きも多様化した。
「子や孫が会社のカネを使い込んだ」「彼女を妊娠させた」「交通事故に遭った」「お母さん、助けて」から、今では警察や銀行を堂々と名乗り、「あなたのカードが悪用されている」「あなたのカードを悪用した犯人を捕まえた」「このままだとあなたの口座からお金を引き出されてしまう」「あなたに逮捕状が出ている」「医療費の払い戻しがある」「あなたに還付金がある」などの事例が報告されている。
特殊詐欺は
グローバル化し得ない
詐欺電話をかける役はふつう「かけ子」といわれるが、これは詐欺グループの中枢部といってよく、そのアジトは繁華街のビルの角部屋、それもできるなら「防犯カメラなし」などの希望条件がある。話の筋書き上、どうしても息子役ばかりか、上司や警察官、弁護士役などが入れ替わり立ち替わり電話し、ターゲットを急き立て、早め早めに現金を用意させる必要があるからだ。
詐欺電話は集団で行った方が説得力も迫力も出る。そのためアジトには多くの若い男性が出入りするが、これは警察の不審を呼ぶ理由になる。よって最後は事務所難になり、中には東南アジアなどに要員ごと移転するケースもある。
最近、ミャンマーの中国人犯罪グループの拠点に日本の高校生が誘い出され、特殊詐欺に加担させられた事例がニュースになったが、これなどはレアケースというべきだろう。
外国人によるロマンス詐欺などを除き、日本人をターゲットにする特殊詐欺は日本語を母語にする者にしか成功は望めまい。かけ子は機敏に相手に切り返して説得や弁明するなど、相当日本語に得手で瞬発力が必要とされるからである。だからこそかけ子はグループの中核であり、柱の稼ぎ手なのだ。事前に電話をかけて家族構成や資産状況を聞き出し強盗に入る「アポ電強盗」などに動員される闇バイトとは別格である。
また、東アジア各国で特殊詐欺がはやっているが、同じ理由でそれが統合され、グローバル化されることはなかろうと筆者は考えている。
特殊詐欺の三種の神器はトバシの携帯、第三者名の銀行口座、富裕層の名簿などといわれてきた。名簿はターゲットを絞り込むために不可欠だが、最近は使える名簿が少ないらしい。同業者が使い古した名簿などは安価に入手できるが、荒らされた後だから使い物にならない。そこで下手な鉄砲のように闇雲に闇バイト応募者を犯罪現場に出し、強盗殺人事件までしでかしている。
いい名簿に恵まれれば、ターゲットはカネを差し出す。だが、金のない者に向かってカネを出せと脅しても、ないものは出せない。ターゲットの内情と心情が分からない者はむやみに人を殺す。闇バイトの募集者にとっても、決して望ましい結末ではないはずだが……。
