ただ、そうした仕事の実入りは少ないから「暴力団の資金源」にはなりようがない。今、暴力団の中堅以下組員の生活レベルは生活保護ギリギリなのだ。とうてい新シノギの開業資金など用意できない。
他方、暴力団は組員が服役すれば留守宅の面倒を見、出所後、家まで建ててやるといった話が広がっている。
それに対して匿流は闇バイトの応募者が事件に失敗して逮捕されても差し入れをしない、弁護士をつけない、冷たいといった評も聞く。
これははっきり言って誤解である。暴力団は「ジギリ」といって組のために敵側を攻撃するなどの犯行に限って服役時に差し入れし、シャバに残された家族の面倒を見るなど援助、報償を行う。組員の個人犯罪などに対しては匿流同様、知らんぷりか、破門、絶縁などの罰を加える。また貧しい組にあってはジギリでの報償さえ略す場合がある。
暴力団も匿流も下位メンバーや使い捨て要員に対する〝冷たさ〟は同じだ。匿流は内界と外界をきっちり分け、彼らが外界に属すると見る闇バイト応募者らに対しては、彼らの犯罪結果に対して知らんぷりをする。そうでなくてもカネの受け取り役や実行犯は足がつきやすい。そんな者の面倒をヘタに見ると、自分たち中枢にまで累が及ぶと考えて、いっさい頬かぶりする。その代わり中枢部が属する内界では親密な仲間内関係を維持する。給与の類いも一流企業の重役を超えるかもしれない。
それはまるで、顔も合わせたことがない中でブルジョワジーとプロレタリアートの関係ができあがっているかのようだ。
「見えない」犯罪組織に
どう向き合っていくべきか
警察は暴力団に対しては組員の個人データさえ蓄積している。対して匿流については情報の蓄積がまるでない。なにしろ匿名型で流動的だから、基礎資料がまるでなく、暴力団相手と違って特別法もない。
警察がこれからも捜査に困惑するのは当然だが、考えてみれば暴力団が存在しない先進諸国ではいわば匿流型の犯罪組織と日々戦って、それなりの成果を挙げているのだろう。日本の警察にも諸外国並みの成果を上げることが期待される。
闇バイトに応募する者たちはたいていギャンブルに狂うか、借金苦で闇の高利業者から厳しい取り立てを食う人々である。彼らは一攫千金による生活の立て直しと窮状打破を夢見て闇バイトに走る。女性も同じような理由でソープランドなどの風俗で稼ごうとする。企業であれ家庭内であれ、彼らを闇バイトや風俗などから遠ざけるためには、日頃から注意深く親切に日常生活を見聞きして、相談に乗れる関係を築いていくしかない。彼らを人生の底なし沼に踏み込ませないための手段は限られているのだ。

