企業の採用担当者は、書類審査の段階で履歴書を読み込む。チェックポイントは、職歴の流れである。
転職のたびに、職務内容、待遇、職位が階段状に上がっておれば、書類を面接の方にまわす。「空白」や「短期離職」があれば、書類選考の段階で落とす。
「短期離職」を繰り返す人だけしか、応募してこなかったらどうするか。その場合、採用担当者は最高度の警戒心をもって面接に臨む。
審査においては、もっぱら「継続力」や「定着性」に集中する。面接試験では、「短期離職」の理由ばかりを集中的に尋ねる。応募者は「ミスマッチだった」「体調不良だった」などと説明するであろう。しかし、それに対して、面接官は、「また同じ理由で辞めるのでは?」「弊社なら適応できるといえるのか?」「うちにきても体調は悪くならないか?」などと執拗に聞く。これに対し、応募者は、「人格否定だ!」「ハラスメントだ!」と被害者意識をもって応ずるわけにはいかない。
会社側からすれば、採用にはコストがかかる。短期離職されることは、採用の失敗なので、やめそうな人間から先に落としていく。
首尾よく労働契約締結にこぎつけても、会社側は試用期間を設けて、定着性を見極める。継続性を試験するために、他の社員以上に厳しい業務を課すかもしれない。
会社としてはその社員に対して疑心暗鬼になっているので、試用期間中は文字通り毎日が試験となる。それに耐えられなければ、本採用に値しないということである。
診断書文化のなかのメンタルクリニック
今日の日本においては、メンタルクリニック発行の診断書が、労働者の休職手段として用いられることが常態化している。この「診断書文化」は、過酷な労働環境、ハラスメント、不当な人事評価といった多くの社会的背景を受けて広がったものである。
とりわけ近年では、「診断書即日発行」や「メンタル不調での休職・退職サポート」といった広告を堂々と掲げるクリニックも目立ち始めた。これらのクリニックでは、初診時のわずか数十分の問診をへて、その場で「うつ病」「適応障害」などの診断名とともに、「自宅療養が必要」と記された診断書が発行される。
オンライン診察だけで診断書を出すことを売り物にしているクリニックもある。退職代行業者と提携し、「メンタル不調→休職→退職」という一連の流れを、ひとつの“商品サービス”としてパッケージ化している事例も見受けられる。
その功罪もまた、退職代行業と同じである。「功」はブラック企業に対抗し得る点であり、「罪」は履歴書タトゥーである。
