2025年12月5日(金)

医療神話の終焉―メンタルクリニックの現場から

2025年5月20日

診断書は患者の希望を書くものではない

 メンタルクリニックの側は、法的問題を抱える。医師法第19条は「正当な事由がなければ、診断書の交付を拒否してはならない」と定めている。これは「患者が希望する診断書を拒否できない」という意味ではない。

 診断書は、あくまでも医学的所見に基づく文書であり、客観的根拠なく「患者が望む病名」や「希望する療養期間」を書き込むことは許されない。医師が患者の希望を優先し、医学的根拠なしに「要自宅療養」とする診断書を発行すれば、刑法第160条に定められた「虚偽診断書等作成罪」に該当する可能性もある。

 実際、2017年には近畿地方の医師が、虚偽の診断書を作成し、大学病院に強制捜査が入り、民間病院の医師が逮捕される事件が発生している。診断書作成の社会的責任の重さが広く認識される契機となった。また、25年には東北地方の病院で、殺人事件を隠蔽するために虚偽の死亡診断書が発行されたとして、医師らが逮捕される事件も報道されている。

患者が望む診断書を出すことは法的にも問題が起こり得る(SARINYAPINNGAM/gettyimages)

 「診断書即日発行」と「休職・退職サポート」」をホームページで喧伝するなどは、刑法第160条に対するあからさまな挑戦である。これらのクリニックの医師たちは、法廷の被告人席に座る覚悟はできているのであろうか。

 しかも、「休職・退職サポート」を謳い上げるクリニックは、必ずしも復職支援や再就職支援を行うわけではない。メンタルクリニックにとっては、患者が治らず、延々と通い続けることこそ、経営上の利益につながるので、主治医は復職も再就職も促さない。

 せっかく飛び込んできた患者は貴重な収入源なので、容易に手放そうとしない。薬剤を出し、薬剤をやめれば離脱症状が出るようにして、通院をできるだけ長期化させて、収益を最大化しようとするかもしれない。

 メンタルクリニックのクオリティ・コントロールはほとんど不可能である。業界全体としての自浄作用は働かない。


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