2025年12月5日(金)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2025年5月26日

対決姿勢示すハーバード大

 ノーム長官は、72時間以内にハーバード大が過去5年間にハーバード大学に在籍していた留学生全ての懲戒記録や、キャンパス内で留学生によって行われた「違法な」または「危険および暴力的な」活動に関する電子記録、動画、音声記録を提出すれば、留学生禁止措置を解除するとしていた。また、フォックスニュースの番組に出演し、他大学にも同様の措置を検討しているかと問われ、「もちろん」と答え、「これは他のすべての大学に対する警告です。早急に改善を図るべきです」と述べた。

 しかし、ハーバード大はDHSの望むようには動かなかった。「そのような措置は違法」と反論したのである。そして「ハーバード大学は、140カ国以上からやってきている、大学およびこの国に計り知れない貢献をしている留学生と研究者を受け入れる能力を維持することに、全面的にコミットしています」と言い切った。

 ハーバード大には、昨年度で約1万人の留学生や研究者が在籍している。うち留学生は約7000人で全体のおよそ3割弱を占めている。彼らはどのような対応を迫られることになるのだろうか。もしこの措置が即座に実施されれば、米国にとどまりたければ新たな受け入れ先を見つけるか、在留資格を切り替えるしかない。

 その期限はわずか30日。多くの学生や研究者にとってほとんど不可能と言ってよいだろう。それができなければそのまま米国にいるだけで不法滞在者となってしまうのである。

 ただ、今年9月からの留学生の入学は予断を許さないものの、既に留学生の身分を得ている者の地位取り消しに関しては別のケースで、カリフォルニアの連邦判事が差し止め命令を出している。また、今回の措置に対しマサチューセッツ州の連邦地裁も23日に差し止め命令を出した。その差し止め命令が有効な間は、既に在籍している留学生や研究者全員がいきなり国外追放となることはないだろう。

不安な日々を過ごす留学生

 留学生がもたらす多様性はこれまでハーバード大ばかりか米国の力となってきたのはまぎれもない事実である。30年以上前に筆者がハーバード大に在籍して一番驚いたのは、その学生の多様さであった。出身国も考え方も生活水準も異なる人々が議論することで、思いもつかない発想が次から次へと出てくるのを目の当たりにした。

 今回の措置の対象となるこれらの留学生や研究者には260人の日本人も含まれている。日本からの留学生が先細る昨今において、是非とも応援したいものだが、より懸念されるのは、祖国が戦争状態あるいはそれに近い状態にある者、あるいは貧困状態や迫害から逃れて来た留学生である。

 彼らにとってハーバード大の合格通知はそのような世界から脱して人生を変える蜘蛛の糸のようなものであっただろう。それが今回の措置で突然米国に居られなくなる可能性が出てきたのである。


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