2025年12月5日(金)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2025年5月26日

 もし彼らが帰国を強いられた場合、その人生は大きく変わらざるを得ないことになる。場合によっては命すら危うくなる人もいるだろう。彼らの切実さは、先進国から来た留学生とはまったく異なるのである。そのような留学生たちが不安な毎日を過ごさざるを得ないことを考えると心が痛む。

地元住民と遠ざかったハーバード大

 トランプ政権のハーバード大に対する措置を、米国社会はどう見ているのだろうか。地元との関係で見ると一昔前と比べて随分と地域から浮き上がっている感じがする。

 35年前、総合図書館に相当するワイドナー図書館の入口には、今日のような身分証がないと開かない入口はなく、観光客でも近所の人でも誰でも書庫の入口前までは自由に入ることができた。豪華な閲覧室に座って過ごすこともカードカタログを繰ることもできた。今日では入館の必要性を記した書類とパスポートなどの写真入り身分証がなければ入ることもできない事務棟にも、当時は自由に出入りできた。

 しかし、今では子供連れがトイレのために図書館に入ることも許されない。同時多発テロの影響もあろうが、随分と部外者を排除したつくりになったものだと感じる。

 地元の人にとってそうなのだから、中西部の地元の州立大でさえ学費が高くて進学できない人々にとって、1年間で900万円近い学費のハーバード大は身近なものではないだろう。むしろ、バンス副大統領のように、高校を出てまず軍隊に入り、その制度を利用して少し遅れて地元の州立大に入るというのが、トランプ支持者の人々には身近に感じられるのではないだろうか。

 しかも、トランプ大統領をひたすら揶揄するような番組を大手テレビ局で作っているのは、ハーバード大をはじめとする名門大学を卒業した民主党系エリートたちである。そういう人たちが、ハリウッドのセレブ達と一緒になって、トランプ批判をする。ハーバード大を応援しようというトランプ支持者がそれほど多くない所以である。

 このままの状態が続けば、今後米国への留学熱は冷え込まざるをえない。英語圏での留学を考える学生は、イギリスやカナダやオーストラリアなど他地域へ向かうだろう。

 多様で優秀な学生や研究者が、呼ばなくても自分からやってくる、それが米国であった。故ナイ教授の言葉を借りればソフトパワーと言っていいかもしれない。それをいま米国は自ら打ち捨てようとしているのではないだろうか。

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