ダンの勝因は投票率が一回目の53.21%から64.72%に急伸したことにも現れているが、国民が国の進路を決める選挙の重大性に気づき、全体として賢明な判断をしたということかと思われる。この記事にも言及があるが、イタリア、スペイン、ドイツなどに所在のルーマニアの巨大なディアスポラ(多くはブルーカラー労働者)の70%近くが一回目の投票ではシミオンに投じたが、決選投票ではそれほどの多数にはならなかった(50%前後か)ことが勝因の一つではないかと指摘されている。
ウクライナに隣接し黒海に面して地政学的に重要な地理的位置にあるルーマニアの政治的・経済的混乱が収まり、EUの主流にとどまることが明らかになったことは歓迎すべきことである。ルーマニアの大統領は外交と安全保障に最終的な権限を有しており、EU首脳会議にも出席する。EUも、そしてウクライナ、モルドバも安堵したに違いない。
新政権の課題
ダンはMAGA型のシミオンに勝っただけではない。彼は無所属として出馬し(USR(ルーマニア救国同盟)が支援した)、共産主義体制の終焉以降はほぼ一貫して政権を担って来た既成のPSD(社会民主党)とPNL(国民自由党)の両党とも決別した形となっている。
ダンの組閣工作は予断を許さないのではないかと思われる。まずは首相を選ぶ必要があるが、彼の意中の人物は暫定大統領を務めて来たPNLのイリエ・ボロジャンではないかという報道がある。しかし、PNLとUSRが組むとして、最大政党のPSDがこれに加わるのか、それとも野党に回るのかが焦点となろう。
ダンの政権にとっての最大かつ緊急の課題は財政である。この記事にも説明があるが、格付けがジャンクボンドに引き下げられることを避け、財政赤字を削減するため(ルーマニアの財政赤字は20年以来EUの監視下に置かれている)、早急に改革を進める必要に迫られている。巨大な課題であるが、これに耐え得る強力な政権を組織することが期待されている。
