2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年6月18日

 マクロンにとって、核兵器が自国の防衛においても、自国の主権の観念にとっても、中心的な役割を果たすものであるだけに、欧州同盟国に核の保護を提供することはデリケートな問題である。議論は現在も続けられているが、フランスの核ドクトリンの変更に至ることはなさそうである。その上で、敵に対するフランスの決意を示すような、他の面での変更はあり得る。

 欧州諸国は、米国との防衛関係を弱体化させるような事態は避けようとしている。ドイツのメルツ首相が訪仏した際、仏独両国首脳は、フランスの核の保護の提供についての議論は、米国から得ている安全の保証という既存の北大西洋条約機構(NATO)の枠組みを補完することが目的であると述べた。

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フランスの三つの条件の意味

 米国に頼らない欧州の独自核の模索が続いている。本年3月、フランスのマクロン大統領は同国の核戦力による保護の対象を欧州の同盟国に広げるための討議を進める意向を示していたが、この解説記事ではその後の状況が示されている。

 マクロン大統領がフランスの核兵器を欧州の他の国に配備する可能性に言及したことに着目した自体も興味深いが、さらに興味深いのは、フランスが欧州の同盟国に対して核の保護を提供する際の三つの条件、すなわち、①費用負担、②フランス防衛能力、③核兵器使用の際の意思決定の3点を明示した点である。

 この三条件は、フランスにとって、核の保護(「核の傘」といってもよい)を他国に提供することが、対外問題であると共に、国内問題であることを改めて思い起こさせる。すなわち、マクロンがここで述べている三つの条件はいずれも、他国への核の保護の提供を行うに際してフランス国内での理解を得ていくために必要な条件である。国内で批判を受ける際、これらの三つの条件を確保していることを防御のラインとする考えであろう。

 一方、これは、フランスの核の保護の提供を受ける側の国にとっては、厳しいハードルとなる。つまり、フランスの核の保護の提供を受けるための費用は、自分で負担する。しかし、有事の際、その核兵器を使用するかどうかの判断を自分でできるわけではない。そうした仕組みとなる。


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