明確化のために、米国の核兵器と受け入れ国の運搬手段の組み合わせで成立しているNATOの「核共有」の仕組みと比較してみよう。「核共有」の場合には、受け入れ国は(運搬手段は準備するものの)核兵器自体の費用を負担するわけではなく、その一方、受け入れ国は核兵器使用について(部分的に)自国の意思を反映することができる。米国が核を使用するとの判断を下しても、受け入れ国が同意しなければ核共有の仕組みでの核使用には至らない。
それに比べてみれば、前記のフランスの三条件は、核の保護の提供を受ける側にとっては「持ち出し」が多い仕組みとなる。これらの国の中にも、自国の負担と利益とのバランスを厳しく見る向きはあろう。このマクロンの三条件の下で、欧州の独自核が成立するかは予断を許さない。
核を提供する国と保護を受ける国の関係
欧州の独自核が成立するためには、核の保護を提供する国とそれを受ける国との間で、現在のNATOでも、欧州連合(EU)でもない、別の枠組みが欧州核同盟として成立しなければならない。前述のマクロンの三条件に関わる本質的な問題は、欧州核同盟を成立させるためには、核の保護を提供する国とそれを受ける国との間で階層構造が作られることとなるが、それが欧州の新たな秩序として受け入れられるかの点であろう。
フランスとドイツ。フランスとポーランド。フランスとバルト三国。それらの関係において、守る国と守られる国、守るためのお金を受け取る国と支払う国、有事の際に究極的な兵器である核兵器を使用するかどうかの決定権を持つ国と持たない国、そうした階層構造が受け入れられるかどうか。NATOが設立された1949年の時点で、隔絶した国力を有していた域外の国である米国と欧州同盟国との間で成立したそうした関係がフランスとその欧州のパートナー国との間で成り立ちうるかが問われることとなる。

