2025年12月5日(金)

経済の常識 VS 政策の非常識

2025年6月18日

名目GDP1000兆円のために必要なこと

 すなわち、名目GDP1000兆円の目標を実現する上で一番大事なのは、物価が2%で上昇し続けることだ。異次元緩和が物価上昇率をプラスに反転させ、その継続がここ4年間の名目GDP3.5%成長をもたらしたことを認識する必要がある。この中には、エネルギーや食料価格の高騰という望ましくない物価上昇も入っているが、緩和の継続があれば3%の物価上昇は十分に可能だろう。

 石破首相のもう一つの目標、平均所得の5割以上上昇も名目GDPが1000兆円になれば可能だろう。なぜなら、GDPとはすべての所得、労働から生まれた所得と資本から生まれた所得を足したものであるからだ(減価償却もあるが、そう大きくは変化しない)。GDPが1.621倍(1000÷617)になれば、多少所得分配が不平等になったとしても労働から生まれた所得の平均も5割は増加しているだろう。

 以上の観察から理解できるように、石破首相の公約実現には物価が2%で上昇することが不可欠である。また、物価が上昇するには金融の継続的緩和が求められよう。

 ところが、石破首相は、首相になる以前、異次元の金融緩和で「日銀財務の悪化、財政規律の麻痺、銀行の体力低下など」の問題が悪化したという意味のことを言っていた(石破茂、倉重篤郎編『保守政治家』236頁、講談社、24年)。しかし、事実は異次元緩和の時代に財政赤字は縮小し、日銀の利益はおそらく過去最高のものとなり、銀行は不良債権を処理できていた(原田泰『検証 異次元緩和』57-68頁、196頁、178-180頁、ちくま新書、25年、参照)。

 過去の発言から金融緩和の継続を渋り、名目GDP1000兆円は実現できないのではないかと思う人はいるだろう。しかし筆者は、石破首相は公約実現のために金融緩和を押し進めると思う。

 石破首相が24年10月1日、政権についてまずしたことは衆議院解散と13.9兆円の補正予算だった。財政規律を考えているとは思えない。

 必要と認識すれば過去の発言との差異など気にしていない。筆者は、これを政治家としての素晴らしい資質だと思うのだ。

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