まだ戒厳令の段階には来ていない。しかし一度警察国家のインフラが確立すれば、その土台の上にそこまで発展することができる。この体制の一部への権限を与えられた人々はその権限を発動する他の機会を狙うものだ。
軍事・コントロールがシビリアン・コントロールに取って代わると国家は体制に対し最も脆弱な人々とその体制を支える人々に分断する。独裁者は両者に恐怖と怒りを煽ることで立場を強固なものにする。
トランプの警察国家に対する現在の防波堤は、連邦裁判所、そしてトランプに対する横断的で平和的な反対運動である。運動はあくまでも平和的で、専制政治と戦う決意を非暴力的に示し、トランプの警察国家のインフラが作り上げられていることとそれに反対する重要性を示す必要がある。
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不法移民対策で点数を稼ぐトランプ
トランプはこのところ面白くないであろう。高率の関税を振りかざしても大したディールのないままに下げざるを得ず、TACO(Trump Always Chickens Out:トランプはいつもおじけづく)というアクロニムが流行り、減税法案は上院で滞り、イーロン・マスクとの仲たがいはトランプにも共和党にも痛みがともなう。
この状況に対し、トランプにとって最も有効な反撃は有権者からの支持の高い治安と不法移民対策である。アメリカ各地で必要な法手続きを踏まない強引な移民や留学生拘束、強制送還への反対運動が起きているが、それを理由に州兵派遣を命じたのがカリフォルニアだったのは、同州が民主党の牙城で、民主党多数の州の中でもリベラルで移民数が多いだけでなく、大統領候補と噂が高く何かと対立してきたニューサム知事を目の敵にしているからでもある。
トランプ政権は1年で不法移民を100万人強制退去させる目標を掲げたが、その数字にはとても追いつきそうにないという焦りもあり、個人の家や学校、教会にまで押し入り、摘発をエスカレートさせ、収監場所不足を補うためにトランプは悪名高いアルカトラズ監獄の再開まで指示している。
州兵は通常知事の要請で派遣されるが、トランプは抗議運動が「連邦政府への反乱の一形態」であるとし、州兵を連邦政府の指揮下に置き出動させた。さらには海兵隊の派遣を命じ、6月9日には約700人がロサンゼルスに配備された。
