懲戒と特別指導の違い
学校においては、校長および教員は、教育上必要があると認めるときは児童、生徒および学生に懲戒を加えることができるとされている(学校教育法第11条)。高校においては義務教育と違って停学や退学などの処分が懲戒として法的に認められている。その要件は次の4点である(学校教育法施行規則第26条)。
①性行不良で改善の見込がないと認められる者
②学力劣等で成業の見込がないと認められる者
③正当の理由がなくて出席常でない者
④学校の秩序を乱し、その他学生又は生徒としての本分に反した者
文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によれば、実際に23年度間に高校全日制普通科(国公私立)において305人が懲戒による退学となっている。
高校における懲戒としての退学処分について、最高裁まで争った判例の一つに「修徳高校パーマ退学事件」がある。これは校則で禁止されていたパーマをかけたことを理由として退学勧告を出したことの違法性をめぐり争われた事件だが、校則に違反したことについての反省が見られず、退学勧告に違法性はないと上告を棄却されている。とすれば今回の事案は学校が勝訴してもおかしくないようにも思える。
しかし、法的に認められているとは言え、高校生を退学させるという大きな処分を下すことは学校としても極めて重い責任を伴う。学校は、その運用に関して妥当性の懸念が生じないよう適切な手順を経なければならない。文部科学省は「高等学校における生徒への懲戒の適切な運用について」(平成20年3月10日)を通知し、その周知徹底を図っている。
具体的には、学校は問題行動に対して、教職員間の共通理解のもと一貫した指導を徹底するとともに、家庭の協力を得るよう努めなければならない。その上で懲戒を行う場合には、基準等に基づいてその必要性を判断し、十分な事実関係の調査、保護者を含めた必要な連絡や指導など、適正な手続きを経るよう努める必要がある。
一方で、こうした正式な懲戒に至る前に、法的効果を伴わない自宅謹慎や学校内謹慎、校長による訓戒などの「特別指導」を学校独自に行うことがある。本事案の判決における「家庭反省指導」とはこうしたことを指している。
広島県教育委員会は「生徒指導のてびき(改訂版)」を出しており、その中の「特別な指導 」として「家庭における反省指導」があげられている。そこでは「児童生徒に自らの在り方生き方を考えさせるための指導・援助という観点から進めること」と述べられている。懲戒と区別することも明記されている。
特別指導を選択した理由
今回の裁判で、広島地裁は、反省期間などを伝えず、指導を受け入れるか判断するための必要な情報を提供しなかったと指摘している。たしかに先の広島県の手引きでも特別指導の留意点として、「児童生徒や保護者に、特別な指導を実施するに至った事実関係と指導の内容を十分に説明するとともに、児童生徒や保護者の反論や弁明の機会を与える」など、手続きを適切にすることがあげられている。
この点について学校側は「母親からの同意があったと認識していた」と反論している。この反論からは文書などによる手続きがなかったことを伺わせる。それはなぜだろうか。筆者は逆に学校が生徒の人権を尊重した結果、特に文書化することを避けたのではないかと推測する。
懲戒による退学等は、学校としてもできれば避けたいことだ。しかし、長期間に渡り問題行動を続け、指導も受け入れないとなれば、今の時代では正直学校は懲戒を行う以外打つ手がない。指導を繰り返しても改善しないとなれば、今度は他の生徒の学習権の侵害という状況を招きかねず、それこそ学校は窮地に立つことになる。
