2025年12月5日(金)

Wedge REPORT

2025年6月23日

 しかし、いじめなどと違って問題行動による懲戒の判断基準は難しいところがある。喫煙や盗撮といった法律違反ならともかく、授業妨害や暴言の類いは言い逃れされやすいし、先述の最高裁まで訴訟に行くような事例もあり、法的な懲戒として停学や退学に踏み切ることは簡単にはできないものだ。

 そこで、今回学校は法的効果を伴わない特別指導を選択し、自主的な退学を促したという可能性もある。そうすれば生徒にとってはあくまでも「自己都合」による退学であって、転居などによる転学と同じで懲戒としての記録も残らない。「必要な配慮を著しく欠いた」のではなく配慮をした結果が無期限の「家庭反省指導」だったのではないか。

 原告の代理人を務めた寺西環江弁護士が、会見で「学校側が適正な手続きを取らずに、事実上、無期限の停学状態にした上で退学を促した」と述べているが、ある意味その通りの可能性はある。

判決の影響を懸念

 一方で、特別指導は法的なものではなく、上述したようにむしろ生徒の人権に配慮して学校の内規で行われるものであり、ガイドライン的なものがあるとは言え、裁判所が違法と判断するのはおかしいとも言える。今回のような判例が続けば、学校では問題行動のある生徒に自らを反省させる指導を避け、手順だけを重視した懲戒に走り、結果として生徒の人生に取り返しのつかない影響を与えかねないのではないか。問題行動が繰り返され苦しんでいる学校は山ほどある。

 実際の学校と保護者のやりとりの詳細は分からないが、結果的に裁判では「発言の趣旨や反省期間などを伝えず、指導を受け入れるか判断するための必要な情報を提供しなかった」と認定された。高校側としては、その証拠として文書などを規程で定めて示すべきだったのかもしれないし、規程を作っている学校もあるだろうが、そうなるとそもそも区別すべきとされている特別指導と懲戒は一体何が違うのかという話にもなる。

広島市は控訴

 この訴訟は決着を見ていない。6月5日、広島市は判決を不服として、広島高裁に控訴した(広島市が控訴、市工高転学巡る訴訟で 一審は市に慰謝料支払い命令)。20万円の金額を市が惜しんだとは思えない。

 この判決が認められれば、今後問題行動を繰り返す生徒の対応において学校が窮地に追い込まれると判断したのだろう。たしかにその判例はこれからの高校の生徒指導対応に大きな影響を与えるだろう。ことによれば「特別指導」は行えなくなる可能性もある。

 そうなればいたずらに懲戒を増やすことになるのではないか。正直客観的証拠がなければ学校の説明責任を証明することは難しいと思われるが、さらに注視していく必要がある。

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