金正恩は交渉のテーブルに戻る意向を示していない。それよりも、ロシアのウクライナ戦争を支援するために軍隊や武器を派遣することで、ロシアとの軍事協力を拡大している。
ストックホルム国際平和研究所は昨年、北朝鮮が約50個の核弾頭を製造し、さらに約40個を製造するのに十分な核分裂性物質を保有していると推定した。
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進んでしまっている開発
現時点において、北朝鮮は核・ミサイル問題につき米国との交渉にはほとんど関心がない。さもありなんと思わせる動きを北朝鮮専門の独立系ニュースサイト「NKニュース」が6月11日付けで報じている。
いわゆる「ニューヨーク・チャネル」で米側が北朝鮮外交官に対し複数回にわたってトランプ大統領の親書を手交しようとしたが、北朝鮮側が「きっぱりと」受け取りを拒否したとのことだ。
このような北朝鮮の態度には、少なくとも以下の3つの理由がある。
第一の理由は、北朝鮮がすでに核・ミサイル戦力の全般において、米朝首脳会談が行われた18年前後に比して各段の進歩を遂げており、北朝鮮にとってこれを抑制することの政治的・軍事的コストが余りに高くなってしまったことである。
北朝鮮は21年1月の朝鮮労働党第8回大会において「国防科学発展および武器体系開発5カ年計画」(以下、「国防5カ年計画」)を打ち上げており、今日までに相当の進展が見られることは認めざるを得ない。また特に本年は「5カ年計画」の最終年に当たっており、北朝鮮にとって「計画達成」を標榜することが至上命令となっていることとの関係でも、米側とのディールに応じる余裕はないであろう。
北朝鮮が現時点において米国との交渉に関心を示さない第二の理由は、22年のロシアによるウクライナ侵攻以来のロシアとの協力が大きく進んでいることである。
本年5月29日、「多国間制裁監視チーム」(MSMT)は、「朝露間の武器移転を含む違法な軍事協力」と題する第1回報告書を公表した。同報告書によれば、22年以降の露朝間の軍事協力により、ロシアから北朝鮮に対し行われた武器移転や軍事協力には以下が含まれる。
① 短射程の防空システムと、ジャミング機能を有するものを含む高度な電子戦システム
② 少なくとも1基のパンツィーリ移動式防空システム
③ 弾道ミサイル使用データの提供による弾道ミサイル開発の支援
④ 火砲、無人機並びに基本的な歩兵戦闘員のための訓練