2025年7月10日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年7月4日

 ニューヨーク・タイムズ紙の6月10日付け解説記事が、北朝鮮においてこれまで特定していた寧辺と降仙(カンソン)のウラン濃縮施設に加え、もう一つの濃縮施設を寧辺に建設中の可能性があるとする国際原子力機関(IAEA)報告を紹介した上で、核能力の増強とロシアとの新たな同盟関係は、仮に北朝鮮が交渉のテーブルに復帰した場合、その交渉力を強める可能性がある、と警鐘を鳴らしている。要旨は次の通り。

(API /gettyimages)

 IAEAは6月9日、北朝鮮が主要核施設内に新たなウラン濃縮施設を建設している可能性があると警告した。これまで、専門家とIAEAは、北朝鮮で未申告のウラン濃縮施設を2つ特定していた。1つは、首都平壌北方に所在する主要核施設である寧辺に、もう一つは平壌郊外の降仙(カンソン)にある。

 しかし、IAEAのグロッシ事務局長は6月9日、ウィーンで開催されたIAEA理事会に提出した報告書の中で、「寧辺における降仙のウラン濃縮施設と同様の規模と特徴を持つ新たな施設の建設を監視している」と述べた。

 西側諸国の当局者やアナリストは北朝鮮の関連施設を注視している。それは金正恩氏が米国や韓国との交渉のテーブルに復帰した場合、北朝鮮の核能力の増強とロシアとの新たな同盟関係がその交渉力を強める可能性があるからだ。

 北朝鮮は長年にわたり、プルトニウムと高濃縮ウランという2種類の核爆弾燃料を生産してきた。プルトニウムは、寧辺にある旧ソ連設計の小型原子炉の使用済み核燃料から抽出してきた。

 ウラン濃縮は、寧辺と降仙で行われていると広く信じられている。アナリストたちは、同国がさらに秘密の場所(複数)でウラン濃縮のために遠心分離機を稼働させている可能性があると疑っている。

 北朝鮮はウラン濃縮計画については秘密裏に進めてきたが、昨年9月に同国の国営メディアが兵器級ウラン製造施設と称する施設を初めて公開したことで状況は一変した。金正恩委員長は、技術者に対し、核兵器を「飛躍的に」増加させるために高濃縮ウランの生産拡大を促した。

 国連安全保障理事会が採択した一連の決議は、北朝鮮の核兵器開発を禁じている。しかし、北朝鮮はこの禁止を無視し、核爆弾燃料を製造し、2006年から17年にかけて6回の地下核実験を行ったほか、核弾頭を搭載可能な弾道ミサイルの実験を多数実施した。北朝鮮はまた、核兵器発射が可能とする水中ドローン、潜水艦、軍艦も建造している。

 北朝鮮のウラン濃縮能力の開示と廃棄は、北朝鮮の非核化を目指す国際交渉の鍵となる部分であった。

 直近の米朝首脳会談は19年にベトナムのハノイで行われたが、金正恩氏とトランプ大統領は、北朝鮮が核兵器計画をどの程度の速さで縮小すべきか、また米国が制裁をいつ解除すべきかについて合意に至らず、決裂した。

 第二期政権発足以来、トランプ氏は金正恩との交渉再開に関心を示している。韓国の新大統領、李在明氏も北朝鮮との対話を求めた。


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