連邦議会議員からも批判の声が上がった。20人以上の下院議員からスミソニアン協会の会長宛に展示計画を「反米的偏見とバランスを欠いた展示企画」と批判する書簡が届けられた。また、ある上院議員は、展示計画を「第二次世界大戦の退役軍人に対して侮辱的」と批判した。
結局、計画されていた原爆被害や歴史的背景には一切触れられない形での展示となり、航空宇宙博物館館長は辞任に追い込まれた。
米国人が記憶し続ける「パールハーバー」
米国において原爆の投下が戦争終結を早め、結果として多くの米兵の命を救ったとする考えが根強い背景には、戦争自体を始めたのは日本であり、また、そのきっかけとなった攻撃が、事前の宣戦布告を伴わない「だまし討ち」だったということへのこだわりがある。真珠湾への奇襲攻撃を忘れてはならないという「リメンバー・パールハーバー」という言葉は、時間の経過とともに衰えるということがなく、これまでも米国が危機に陥る局面で必ず口にされてきた。
例えば、01年9月の同時多発テロの時も、ちょうど真珠湾攻撃から60年後だったこともあり「60年後のパールハーバー」と呼ばれた。また、ブッシュ大統領も同時多発テロと真珠湾攻撃を同一視する発言を行っている。コロナ禍において、米国内で大量の死者が予想される週を迎えるにあたって、軍医総監は米国民に「パールハーバーモーメント」になるだろうと述べて備えるようにと警告を発した。
米西部ワシントン州にある、核燃料製造に従事する人々のための町リッチランドでは、学校のシンボルマークにきのこ雲を用いている。その町を描いたドキュメンタリー映画の一場面で、きのこ雲のマークを用いるのをやめてくれないかと日本人が言ってきたと聞いた地元の人は「戦争をはじめたお前たちの言うことか」と語る。この反応は多くの米国人の気持ちを物語っているのではないだろうか。
若者を中心に変わる意識
ただ、米国において行われた世論調査を見ると時代が進むにつれて、原爆投下が正当化されると回答する米国人の比率が下がってきていることがわかる。戦争終結直後は圧倒的多数が正当化されると答えていた一方で、スミソニアンでのエノラ・ゲイ展示が論争となった90年代において6割台に下がっており、21世紀にはいると5割台にまで下がっている。
近年の調査を世代別にみると、45歳以上では「正当化される」とする回答が「正当化されない」という回答を大きく上回るが、それより若い世代では、回答が逆転している。これにはいろいろな要因が考えられるが、その一つは、教育による効果があるのではないだろうか。
