2025年11月9日(日)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2025年6月30日

 以前よりも広島や長崎の被害について多くの教育が米国内でもなされるようになっており、若い世代ほどそれを目にする機会も多いだろう。今回のトランプの発言を見ても、広島や長崎を「例として使いたくない」と何でもずけずけと語るトランプにしては珍しい前置きをしているが、これも無意識のうちに原爆投下はよくないことと刷り込まれた教育の効果といえないだろうか。

展示〝刷新〟の懸念

 では、このまま待っていれば米国の世論の大半が原爆投下は正当化されないと考える層で占められるようになるのだろうか。そうとは断言できない動きがある。リベラルな傾向が強く、90年代にエノラ・ゲイ展示企画論争の舞台となったスミソニアン協会の自由な活動へトランプ政権が圧力を強めているからである。

 3月27日に署名された大統領令「アメリカの歴史に真実と正気を取り戻す」の主たるターゲットがスミソニアン協会である。スミソニアン協会をはじめ税金が投入されているにも関わらず、多くの組織が「米国の歴史を殊更貶めるような形で書き換え」てきたことによって、「米国社会の分断を強め、国家としての誇りを傷つけて来た」というのである。この論法で行くと、原爆投下を正当化せず、広島や長崎の被害に焦点を当てるような展示は問題とされる可能性が高い。

 現在、国立航空宇宙博物館は大規模な展示刷新のプロセスの最中である。そこにはエノラ・ゲイが展示されている別館も含まれている。第二次世界大戦終結80周年の今年、刷新されるはずだったか、遅れており来年になる見通しだという。刷新によって展示や説明が大きく変えられる予定であり、当初の改装計画では原爆投下後の広島と長崎の写真も新たに展示されると伝えられていた。

 3月の大統領令で始まったトランプ政権のスミソニアン攻撃は今も継続している。大統領は5月30日にはスミソニアンの一角である国立肖像画美術館のサジェット館長を解雇すると投稿した。党派的でDEI(多様性、公平性、包括性)推進派だからというのが主な理由である。

 政権からの圧力が増す中、来年の国立航空宇宙博物館の展示刷新がどのようなものになるのかは注視に値する。と同時に日本側の原爆投下に関する思いを伝えるためには、地道に働きかけを続けることが必要なのではないだろうか。

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