インドと中国は、24年10月に印中首脳会談以降、国境地域における緊張緩和に進んできたはずだ。だからこそ、インドは、今回、上海協力機構の国防相会談に出席したのである。しかし、インドは、中国が議長国を務める会議で、中国側の用意した、中国とパキスタンに偏った共同声明案への署名を迫られ、これを拒否した。
インドと中国の緊張緩和はこの程度であることがよくわかる。両国の陸上国境でも、まだ大規模に軍事展開は続いており、長期安定的に敵対関係の状態で、そう簡単には変化しないのである。
なぜイスラエルを非難しないのか
上海協力機構についてインドが拒否していることがもう一つある。6月14日に上海協力機構が出した、イスラエルのイランへの攻撃を非難する声明について、インドは議論に参加していない、と表明した点だ。
イランは、上海協力機構の加盟国で、イスラエルを非難する声明を出すことに力を入れた。なぜインドは、これについても、インドの意思ではないことを強く打ち出したのだろうか。
インドは、23年10月7日にハマスが行ったイスラエルへのテロ事件に際して、アメリカよりも先にイスラエル支持を出した国である。その後、国連でも、新興国グループBRICSでも、イスラエル非難に関しては棄権してきた。その背景には、長年、イスラム過激派の残虐なテロに直面してきた背景があり、インドとイスラエルは、対テロ協力を進めてきたことがある。
近年、インドとイスラエルの協力は、両国の武器取引や、海洋安全保障における協力にまで発展してきている。海洋安全保障協力の例としては、インドが進めるシーレーン防衛の拠点ラクシャドウィープ諸島におけるインド海軍の基地設置に際し、海水の淡水化事業をイスラエルが行っている。
インドがイスラエルから武器を購入する背景には、いくつか理由がある。長年、ロシア製の武器を使ってきたインドにとって、ロシア製の武器を改造し、能力強化するパーツは魅力的だ。中東戦争で多くの旧ソ連製兵器を取得、改造してきた経緯から、イスラエルは、そのようなパーツを供給できる。
また、イスラエルは、他の国が供給しない特殊な武器を供給してくれる国でもある。例えば、インド空軍は、武器体系が複雑で、ロシア製の武器も、フランス製の武器も保有している。ロシア製の戦闘機でフランス製のミサイルを発射したいし、フランス製の戦闘機でロシア製のミサイルを発射したい。普通は、それぞれ、自国の武器しか使用できないよう、ソフトウェアで制限をかけている。イスラエルは、その制限を解除するソフトウェアを販売しており、インドは、それを購入して、実際にミサイルの発射実験も行っている。
だが、最も重要なのは、インドにとって、イスラエルは、長期にわたって安定的なパートナーだったからだ。インドとイスラエルが国交を樹立したのは92年である。しかし、それ以前から、イスラエルはインドにアピールしてきた。
