2025年7月10日(木)

インドから見た世界のリアル

2025年7月1日

 中国の山東省青島で行われていた上海協力機構(参加国は、中国、ロシア、ベラルーシ、パキスタン、イラン、中央アジア5カ国の内4カ国、そしてインド)の国防相会議で、インドが共同声明への署名を拒否し、共同声明が出なかったことが、世界的なニュースになっている。何が起きたのだろうか。本稿で分析することにした。

上海協力機構の国防相会議に出席していたインドのラージナート・シン国防相が共同声明への署名を拒否した(AP/アフロ)

インドに対するテロへの言及がなかった

 インドが署名を拒否した理由は、4月22日に起きたとみられるカシミールの観光地パハルガムでのテロ事件について、これを非難する内容が盛り込まれなかったことである。このテロをめぐっては、パキスタンによる支援が疑われ、5月7~10日の間、印パは交戦した(「<解説>インドがパキスタンに攻撃、今後起こること…大きな戦争あるいは核戦争?印パ関係の歴史から分かる不思議な「安定」」)。

 一方で、共同声明案は、パキスタンから分離独立を求めるバルチスタン州については言及しており、インドが騒乱を引き起こしているといった非難も盛り込まれていた。このバルチスタン州については、クルド人に次ぐ、世界第2位の規模の、国を持たない民族といわれ、過去、繰り返し、武装蜂起してきたものである。

 近年、バルチスタン州では、中国が一帯一路構想に基づく大規模なインフラ開発を行っており、バルチスタンの分離独立派武装勢力は、中国人をターゲットに数多く攻撃してきた。中国はパキスタンに治安対策を強化するよう求めると共に、自らも民間軍事会社や、軍も投入して治安対策してきたとみられている。

 パキスタンは、この武装勢力をインドが支援しているとして非難し、インドはこれを否定して、長年、この問題に言及しなかった。しかし2016年の独立記念日の演説でモディ首相は、バルチスタン州(およびカシミールのパキスタン支配地域)に言及して、つながりを示唆した。

 このような背景を見れば、今回、中国が議長国になってまとめた上海協力機構の国防相会議における共同声明案は、中国とパキスタンの側に偏ったものだったことがわかる。パキスタンが支援するテロには言及せず、インドとバルチスタンの部分だけ言及しているのである。


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