2025年12月6日(土)

教養としての中東情勢

2025年7月2日

 テヘランからの報道などによると、イラン原子力機関の高官は「新たな核施設が建造され、安全で攻撃されない場所にある」と明らかにしており、濃縮ウランがここに移動、隠匿されたことも否定できない。ニューヨーク・タイムズ紙によると、新施設はナタンズ南方の「コラン・ガズ・ラ山」(海抜1608キロ)にあり、フォルドウの施設よりも深い地中に建設されたという。

「破壊」状況に割れる見解

 核施設の破壊をめぐっては「完全に破壊された」というトランプ氏の主張に対し、国防情報局は「遠心分離機は大半が無傷。核開発を数カ月後退させただけ」と分析。グロッシ事務局長も「深刻なダメージを受けたが、数カ月以内に濃縮活動を再開可能」と明らかにした。

 

米国が攻撃したイランのフォルドウ地下核施設。施設がどれだけ破壊されたのか、見えていない(MAXAR TECHNOLOGIES/ロイター/アフロ)

 こうした見方に我慢がならないのはトランプ大統領だ。トランプ氏は自分がイランの核開発を「完全に破壊し、数十年遅らせた」と成果を誇示してきたが、文句をつけられたことに激怒。慎重だった側近らもトランプ氏に追従、米中央情報局(CIA)のラトクリフ長官は「深刻な打撃を受けた」と援護射撃した。

 トランプ氏はイランも米国の攻撃に「懲り」て、話し合いに応じると「核協議入り」を一方的に宣言した。だが、攻撃が不十分だったとの見方が広がり、反発を強めた。イランに対し、攻撃を受けた核施設の査察を要求、国防情報局の分析を報じたCNNの記者を「クビにしろ」とSNSに投稿した。

 イランの最高指導者ハメネイ師が米国とイスラエルに勝利したと演説したことに対しても「うそをつくな。あまりに愚かだ」と非難し、イランへの制裁緩和の検討を中止したと表明。イランが濃縮活動を再開すれば、再び攻撃すると強く警告し、一気に「イラン危機の第二幕」が上がった。

 だが、思惑が外れたのはひとえに、「見通しの甘さ」と「場当たり的な政策」のせいだ。「トランプ氏の怒りは焦りの裏返しでもある。イラン危機を解決しノーベル平和賞も視野に入ったと思い込んだが、大きく狂った。その上、このままでは避けたかった紛争の泥沼にはまり込んでしまう」(ベイルート筋)。

 なによりも歴代政権の中東への軍事介入を非難し、「米国第一主義」を掲げてきたのはトランプ氏自身だ。支持基盤のMAGA派(メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン=アメリカを再び偉大に)もそれを信じて同氏の元に集まったが、介入が長引けば、それも失いかねない。


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