2025年12月6日(土)

教養としての中東情勢

2025年7月2日

イランの“モサド狩り”

 ハメネイ師の強気はどこまで本気なのか。ハメネイ師は米国もイスラエルも地上戦には持ち込めないと読んでいるが、かといって防空網が破壊されている現状ではただいたずらに爆撃を受け、民間人の死傷者や損害が増えるのを目撃するだけだ。どこまで攻撃を許容できるのか、本当の覚悟を試されているというのが現実だ。

 今回は米軍の攻撃に対し、報復としてカタールの「アルウデイド」米空軍基地へミサイル14発を発射したが、事前に米側に通告するなど避難する時間を十分に与えた。しかし、次回はそうはいかない。同空軍基地を含め、ペルシャ湾岸のアラブ各国にある米軍基地が事前通告なしの標的になるだろう。

 そうなれば、米軍の反撃を呼んで報復の連鎖となり、ペルシャ湾を挟んでの交戦に発展しかねない。イランが同湾の出入り口にあるホルムズ海峡の封鎖にまで踏み込む恐れもあり、日本を含めた世界経済に悪影響を与えるのは必至である。

 トランプ氏が追い込めば、「窮鼠猫を噛む」の例えのような状況が生まれる恐れはある。ハメネイ師がそこまで覚悟を決めているのかが焦点だ。

 こうした緊張した状況の中、イランの治安当局は国内に浸透したイスラエルの特務機関モサドの摘発に躍起になっている。6月13日のイスラエルの攻撃は地上のモサド部隊と上空の航空攻撃隊との連携によるものだった。

 モサドは10年前からイラン国内への浸透を図り、今回は短距離ミサイルやドローンの部品を密輸。組み立てて防空網を攻撃し、軍幹部や核科学者を殺害した。

 軍幹部らの住宅を事前に突き止めるなどその情報収集力は筋金入り。イラン側は「治安網に欠陥があった」として“モサド狩り”に躍起だが、思うような成果を上げていない。イランの治安当局は不審な行動の車や人の動きを通報するよう呼び掛けているが市民の反応は芳しくない。

 テヘラン市民の間では、少数民族や宗教的少数派、反体制派への弾圧が厳しくなり、逮捕状なしの拘束が増えたことに懸念が高まっている。これまでに市民ら約700人が拘束されたという。だが「モサドは普通の市民を引き入れており、簡単には摘発できない。むしろヒジャブ騒動に続く新たな弾圧が始まるのが怖い」という見方もある。

 ベイルート筋はサウジアラビアやカタールなどが水面下でイランと米国に緊張緩和を呼び掛けており、「数日以内になんらかの進展」があるかもしれないと期待を表明した。

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