2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年7月7日

 米国が「任務完了」を主張できるのは、イランの核計画が完全かつ検証可能な形で解体され、イランの体制が米国やイスラエルとの紛争を求めない、安定的で、親西側の政府に取って代わられる時であろうが、そうした結果にはなりそうもない。もっと可能性の高いシナリオは、イランが手ひどく損害を受けるも、引き続き敵意に満ちた状況であることであり、そうしたイランは予想もつかないようなやり方で反撃してくることがありうる。

 もう一つの可能性は、現体制が崩壊し内戦が勃発する事態である。どちらの場合も、米国が地上軍の派遣を含む、もう一つの中東戦争に引きずり込まれる可能性がある。

 このようにイスラエルの現在の成功は脆弱な性格のものである。イスラエルは、米国との関係でもリスクを負っている。

 イスラエルはガザにおける残忍な戦争で米国の民主党員における支持が損なわれている。ネタニヤフ政権によって、米国が再び終わりのない戦争に駆り立てられることとなれば、イスラエルに対する反発は超党派かつ長期にわたるものとなろう。

 このように異なった意味で、イラン、イスラエル、米国はギャンブルをしており、三者ともギャンブルの敗者となる危険性がある。

*   *   *

米国が抱える3つの課題

 6月22日の米国のイラン攻撃を受けて、FT紙チーフ外交コメンテーターのラックマンが、イスラエル、イラン、米国にとっての中長期的な帰結を論じた論説である。紙幅の関係もあってか、地域情勢との関連が主に検討されているが、ここで触れられていない論点も少なくない。また、その後の展開もある。ここでは、米国を中心に論じたい。

 第一に、今回の米国の攻撃が短期的にイランの核活動に一定の打撃を与えたものであるとしても、中長期的に核不拡散の目的に適うかどうかは現時点では何とも言えない。今回の攻撃でフォルドゥ、ナタンズ、イスファハンの核施設に打撃を加えたとされるが、被害の程度は分からない(核施設の被害が軽微なものに止まった可能性、多くの高濃縮ウランが被害を免れた可能性が指摘されている)。

 また、イランは核活動を各地に分散させており、イランの核活動の全てを破壊し尽くすことは困難である。攻撃への反発として、あるいは抑止力の観点から、核開発への意欲をかえってかき立てる結果となる可能性も排除できない。

 今回の米国の攻撃の後、米国の提案によりイスラエルとイランが停戦に合意したことは朗報であったが、今後を考えれば、停戦の持続とともに、核協議を通じてイランが核を持たないようにするための枠組みが設定されなければならない。ウラン濃縮をイランが放棄するかが焦点である。


新着記事

»もっと見る