2025年12月6日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年7月16日

 マーティン氏はさらに、F-35A戦闘機に関する決定は「英国の完全な主権国家としての能力形成に向けた第一歩」なのかと問うたが、これに対しマリア・イーグル国防相はそうではないと述べ、新型機が2020年代末までに納入されることを期待していると付け加えた。

 エクセター大学戦略安全保障研究所のデイビッド・ブラグデン氏は、「米国が管理するソースコードを持つ米国製の航空機を新たに購入し、米国所有の核兵器を搭載することは、実際には英国による米国の善意への依存を深めることになる」と指摘している。

 6月23日、キア・スターマー首相は、2035年までに国の経済生産の5%を安全保障に充てるというNATOの新たな目標に署名した。「もはや平和を当然のことと考えることはできない。だからこそ、わが国政府は国家安全保障に投資し、軍隊に必要な装備を供給できるようにしているのだ」とスターマー首相は声明で述べた。

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米国の協力を前提とした空中発射核システム

 英国が核・非核両用のF-35A戦闘機の購入を決定したことの第一の意義は、英国が戦略核戦力のみではなく、戦術核戦力の保有にも舵を切ったということである。

 本件記事にもあるが、英国の保有する核戦力は、戦略核戦力たる「トライデント・システム」ただ一つで、これはトライデントⅡ弾道ミサイル、核弾頭および発射プラットフォームたる原潜×4隻で構成されている。しかしながら、ウクライナ戦争が開始されて以来、ロシアは繰り返し核使用の威嚇をかけており、戦場における通常兵器による戦闘が戦術核を伴う戦闘へと発展する可能性にも備えていることを示す必要が生じている。このような中で、エスカレーション・ラダーのギャップを埋める作業が必要となった。

 第二の意義は、(少なくとも現時点において)英国としては戦術核弾頭の独自開発を想定していないことを示したと思われることである。

 米国のF-35A戦闘機購入に関する今回の決定につき、英国議会では「英国の完全な主権国家としての能力形成に向けた第一歩なのか」との質問が出たが、これはまさに戦術核の独自開発を前提としているのかを問うたものであり、これに対するイーグル国防閣外大臣(国防調達・産業担当)の答えは「ノー」であった。

 翻って、英国の戦略核戦力たる「トライデント・システム」も、実際には米国に対する依存度が非常に高く、米国との協力関係がなければ直ちに運用が困難になる。英国の核政策をレビューする目的で設置された超党派の「トライデント委員会」の報告書(2014年)には、仮に米国の協力が完全に断たれた場合、「英国の核能力は数年単位ではなく数カ月単位しか生き残れないだろう」との見方を示している。


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