今回のF-35A戦闘機購入についての決定は、これまでの政府側発言等を見る限り、もともと米国との協力が大前提であった戦略核システムに、同じく米国との協力を前提とする戦術核システムを加えたものと見ることが可能である。
とは言え、米国の信頼性について不確実性がある時に、さらに米国への依存を前提とした空中発射核システムを導入することの是非は引き続き問われるであろう。
今般の英国政府の決定の背景には、欧州としての防衛力強化に注力しつつも、同時に可能な限り米国の関与を確保する努力を続けるべき、との発想があると思われる。また、新たな独自の核戦力構築には時間がかかるが、ロシアの脅威や中国の軍事力強化のスピードを考えれば間に合わない可能性があることなども考慮されたかも知れない。
インド太平洋への影響
最後に、今回の決定を含む英国による防衛態勢の見直しとインド太平洋地域との関係について付け加えておきたい。
英国では6月初めに「戦略防衛見直し2025」、また同下旬に「国家安全保障戦略」が発表され、これらはいずれも核抑止の強化を最重要課題の一つとして強調しているが、両報告書が強調する主たる方針にはもう一つ、「NATOファースト」がある。これは必然的に、インド太平洋におけるプレゼンスの相対的な縮小につながるものである。
「戦略防衛見直し」を主導したリチャード・バロンズ将軍は、英国は「戦力が分散し過ぎている」として「欧州におけるNATOの抑止力としての役割に軍の重点を移す必要がある」と述べ、インド太平洋への関与は恒久的な軍事プレゼンスよりは「戦略的コミュニケーション」に依存するようになるだろう、と述べている。
アジア地域との政治的・経済的な協力関係は今後も維持ないし強化していくであろうが、軍事プレゼンスは縮小が見込まれることに、わが国としても留意が必要であろう。
