この論説は、中国に対する米国の関税は依然として高率であり、ベトナムは関税面で以前に比してさらに優位に立つことになったとして、中国とのデカップリングの結果としてサプライチェーンと輸入先がベトナムのような諸国にシフトすることを米国が容認する合図をベトナムとの合意に読み取ろうとしているようである。
それは容認かも知れないが、そこに「中国+1」に対するトランプ政権の積極的な姿勢を見ることには無理がある。トランプ政権の関心が貿易赤字の解消・削減にしかないことは、この地域の諸国に対するトランプの当初の高率な「相互関税」を見れば明らかである。
アジアへのシフトとしては失策
トランプのこのような破壊的なアプローチはこの地域が「中国+1」の投資先の地位を獲得・維持することを阻害する効果を持つであろう。この記事にも言及があるが、「積み替え輸出」に対して過剰な規制を求めれば、この阻害効果は一層大きくなる。中国に対する関税との対比における優位性すら、この先どのように推移するかトランプの場当たり的な行動に照らせば予測し難い。
本来、トランプ政権(およびバイデン政権)は「中国+1」の流れを利してアジアを取り込む戦略を選択すべきであったと思われる。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に加盟することはアジアの諸国を取り込みサプライチェーン作り替えへの有力な手段となり得たのだと思う。アジアへの戦略的なシフトを言いながら、そういう考慮を一切しなかったことは遺憾な失策だったように思われる。

