2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年7月24日

 問題は、「積み替え輸出」に対する40%の関税である。推定によれば、ベトナム経由で米国に「積み替え輸出」されている中国の物品は20億ないし30億ドル程度に過ぎない。しかし、トランプ政権は「積み替え輸出」を広く定義するのではないかと思われる。米通商代表部(USTR)のジェミソン・グリアは、輸入された物品が一定の水準を超える中国製の部品を含み、当該輸出企業が中国の所有である場合にはより高率の関税を課すことを以前示唆したことがある。

 トランプ政権の交渉の仕方はあまりに場当たり的であるので、ベトナムとの取引を、他諸国の参考にするのは難しい。他のアジアの途上国にとっては、両面ある。輸出仲間としては、ベトナムの大きな対米黒字にかかわらず、多大な見返りを強いることなく、トランプ政権が関税を引き下げたことに慰めを得ることが出来る。けれども、競争関係にある輸出国としては、巨大な競争力を有するベトナムが比較的無傷で切り抜けたかも知れないという幾分かの失望が生ずるであろう。

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ベトナムは「中国+1」の地位を死守

 ベトナムの2024年の対米貿易黒字は過去最高で、1230 億ドルを超え、中国、欧州連合(EU)、メキシコに次いで4番目の水準を記録した。貿易赤字を相手国による「搾取」の証拠と見るトランプは、ベトナムに46%もの「相互関税」を提示していた。

 6月2日に両国間の合意が公表されたが、合意はベトナムにとって「かなり良い結果」であり、ベトナムは「比較的無傷で切り抜けたかも知れない」というこの論説の評価は妥当な評価ではないかと思われる。

 ベトナムが対米関税をゼロにするのでは均衡を失しているが(他にも、ベトナムはボーイングの航空機50機や農産物の購入を約束したとの報道がある)、ベトナムにとっては「中国+1」の投資先の地位の保全が至上命題であったに違いない。そのためには、全体の30%を占める対米輸出の機会は保全されねばならず、対米関税ゼロ(対米輸入の4分の1以上は農産物で大半が綿花、大豆、ナッツ類)は決断出来ない問題ではなかったであろう。


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