人間への公衆衛生においても重要
畜産物には、ワクチンや抗菌薬が不可欠であり、消費者が不安に思うようなリスクが起きないよう運用や管理は徹底されている。ことにワクチンについては、越境性動物感染症の病原体遺伝子配列情報のビックデータをAI解析するといった効率的な研究も実施されている(「越境性感染症等の流行に即応可能な動物用ワクチンの次世代化」(研究代表 芳賀猛・東京大学教授)。ワクチンの適正な利用が家畜感染症の被害を小さくすることも期待される。
家畜のワクチン、抗菌剤への理解の深化に加えて覚えておきたいのがワンヘルスアプローチである。
ワンヘルスとは、野生生物保護協会(WCS)が04年に策定した “One World, One Health”のことで、「人・動物・それを取り巻く環境の健全な状態は相互に密接に関連しており、真の健康とはそれらを総合的に良い状態にする」という概念だ。
20世紀末に次々に出現した動物由来の新しい人への感染症がきっかけになって提唱されたものである。動物の感染症は畜産物だけではなく、人の病気にも発展する可能性もあるのだ。
新型コロナウイルスがコウモリと関係がありそうだという説は記憶に新しい。動物医薬品は公衆衛生の問題にもつながってくる。
日本では16年からワンヘルスの第1次アクションプランが開始され、23年からは第2次アクションプランが進められている。本稿では家畜の疾病だけをみてきたが、動物と人間の種を超えて感染する病原体が多く発生している現在、ヒト、動物、生態系の健康を追求する国際的、学際的、分野横断的な統合的アプローチは必要だ。
薬剤耐性菌対策も、ワンヘルスの視点から考えると、抗菌薬は人にも動物にも植物にも使用されており、薬剤耐性菌が人と動物との間で直接に、また環境を介して行き来する可能性も指摘されている。薬剤耐性菌対策こそ、分野横断的に対策を練る「ワンヘルス」の考え方を導入したい。
ワンヘルスアプローチを念頭に、環境負荷の低減を図りながら、持続可能な畜産を発展させていく必要がある。動物薬品の耐性菌の問題と同様に、人の医療においても適正な抗菌剤を使用する意味を消費者も理解しなくてはならない。
