2025年12月5日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2025年8月5日

思い出される13年前

 筆者は映画の公開日が9月18日になった報道を見て暗澹たる思いにかられた。9月18日は前述の通り、日中間にとって非常に敏感な日であると同時に、今から13年前の2012年9月に起きた出来事をすぐに思い出したからだ。

 12年9月といえば、日本政府が尖閣諸島を国有化したことに端を発し、中国各地で激しいデモが起きた時期だった。当時、筆者はあるオンラインメディアに反日デモに関する記事を書いた。

 そのときの文章が、その翌年に出版された自分の書籍にも残っているのでよく記憶しているが、柳条湖事件の前日である9月17日は、北京、上海、広州など全国の約100都市で大規模な反日デモが繰り広げられた。過去にないほどの規模であり、日中関係にとって「最悪」と言われた日だった。

2012年9月に中国で起きていた反日デモ。現在の反日行動との違いは?(ロイター/アフロ)

 当時の雰囲気をよく覚えている関係者や中国在住の日本人もいると思うが、その前後、多くの中国人を雇用する中国のある日系大手メーカーは放火され、日系スーパーは暴徒によって一部が破壊されるという被害に遭った。中国で危険な目に遭ったり、通りすがりの中国人から暴言を吐かれたりした日本人もいた。

 このデモの影響は大きく、その後、長い間、日中関係が冷え込んだことは多くの日本人の知るところだ。それから13年が経ち、現在の日中関係は最悪とまでは言えないかもしれないが、よくない状態が続いている。これに加え、今年は戦後80年に当たるため、中国ではとくに数々の行事が行われる。

 中でも大きな行事は9月3日に行われる「中国人民抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80周年記念式典」だ。その後、12月13日の南京事件に関する国家追悼日まで敏感な時期は続くが、そのような状況下で、9月18日に映画「731」が公開されるということに、大きな不安を覚えた。

反日感情がさらに拡大する可能性

 中国のSNS上には、前述の「南京写真館」の残忍なシーンなどを取り上げて「この屈辱を忘れない」といった声が上がっており、「731」の公開日に関しても「この日に公開するのは最もふさわしい」といった過激な声がある。むろん、そうした声がすべてではなく、冷静な人も大勢いる。だが、冷静な人はコメントを控えるため、日本批判の声が目立ちやすいという状況になっている。

 12年のときにはまだスマホもなく、SNSもほとんどなかったため、その動きが個人から個人へと拡散され、中国全土にまで拡大するということはなかった。中国100都市のデモといっても、情報統制も敷かれており、当時、デモが起きたことをまったく知らなかったという中国人も大勢いた。むしろ、日本での報道は非常に大きかった。

 だが、SNSが高度に発達した現在は、当時とは社会環境が大きく異なっており、SNSでの過激な発言により、映画や行事の影響がどこまで拡大し、日中関係に悪影響を及ぼすのか、わからない状況だ。


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