心配されるのは、中国が現在置かれている厳しい経済状況である。コロナ禍で政府がとった対策や不動産不況などにより、中国経済が悪化していることは周知の通りだ。若者の就職難が続いているだけでなく、中高年のリストラも相次いでいるという。政府の倹約令などで、飲食店などの倒産も起きている。
職にあぶれた人々が大きな不満を抱え、失望している。そうした厳しい状況にいる人々が、不満のはけ口として「日本」をターゲットにする可能性があるかもしれない。日本は中国が戦争で戦った相手であり、これまでの経験から、「日本」を叩く分には大きなお咎めを受けないと考えている中国人が少なからずいるからだ。
中国で相次ぐ無差別襲撃事件
昨年6月、蘇州の日本人学校のスクールバスが襲撃され、バス案内係の中国人女性が亡くなり、日本人の母子がけがを負った。前述の通り、昨年9月18日には深圳で日本人男児が殺害されている。
最近では、映画「731」のもともとの公開日だった7月31日に蘇州の地下鉄駅構内で日本人母子が男に襲われ、母親がケガをした事件が起きたばかりだった。この翌日で、事件が報道された8月1日は中国の人民解放軍の建軍98周年の日で、中国共産党が武装蜂起した江西省南昌市で記念行事が行われており、中国メディアの動画で生中継されていた。こうしたことが最近でも起きているということだ。
他にも今月3日、湖南省の小学校近くで男が刃物で人を切りつけて2人が死亡する事件が起きた。日本人が襲撃された件も含め、昨年から、中国の小学校の近くで無差別に襲撃する事件は複数起きている。
犯人の動機はほとんど明らかにされていないが、無防備な子どもをターゲットとしていることから、「社会に対する報復ではないか」とも言われており、それが国内の一般市民に対してだけでなく、日本人に向かう可能性も十分にある。
9月18日には要注意を
このように、経済の悪化などを発端として、自身の境遇や社会に対する不満が渦巻いている人が多い中で、日中戦争を描いた映画が公開されている。先に挙げた映画「南京写真館」は、公開から10日目の8月3日に興行収入が15億元(約300億円)を突破し、現在大ヒットを記録中だ。
同映画は中国の映画評価アプリ「ドウバン(豆瓣)」で10点中8.5以上と人気を博しており、SNSでも「日本が何をやったかよくわかった」などのコメントを書き込む人が多い。夏休みシーズンでもあり、親子連れで映画を見に行く人も多く、そこで日本に対してネガティブな印象を持つ子どもが増えることは必至だ。
このような状況下で、8月15日には終戦の日を迎え、9月3日には、中国で抗日戦争勝利80周年の記念行事が行われる。9月18日に映画の公開日を仕切り直した中国政府の意図は現在のところ不明だが、9月18日が日中にとって非常に敏感な日であることに変わりはない。その日にわざわざ公開日を設定したことは、何らかの意図があるのではないかと思わざるを得ない。
