「琉球処分」とイデオロギー
沖縄と韓国の日本、または本土との向き合い方を比べていくと、韓国の方が、より「歴史問題」に重点を置いていることが浮き彫りになる。過去の朝鮮半島での植民地支配に対する日本の謝り方や賠償のあり方などについての批判や怒りである。
韓国は今や成熟した民主国家となり、経済的にも豊かになった。現在の日本はその経済成長を阻害するなどといった、実質的な害を及ぼす存在ではなくなっている。つまり、韓国の日本批判は、相当部分がイデオロギーに根ざした過去の歴史認識に向けられているといえる。
一方、今の沖縄には、「歴史問題」はもちろん存在するが、現在ある「米軍基地問題」の方が、日本政府と対立するより重大なテーマとなっている。
米軍基地は、存在するだけで、騒音や環境汚染などが周囲に及び、時に米兵が基地の外で犯罪を犯したり、事故を起こしたりする。それを日本の警察が捜査できないなど日米地位協定に関連する課題もある。加えて、常に心配なのは、例えば米軍機が墜落するといった重大事故を起こし、周辺住民に甚大な被害を及ぼす緊急事態だ。沖縄の住民は、実際に過去に何度もそうした被害に遭っている。
一方、韓国では、米韓地位協定に基づく似た状況があっても、近年、目立った抗議運動は起きていない。「2002年、米軍装甲車による女子中学生死亡事件後に起きた大規模な反米デモは、異例のケースだった」と韓国の関係者は指摘する。それは、北朝鮮の脅威が「今そこにある危機」としてすぐ隣りに存在することが影響していると思われる。
このように、韓国と比較すると、沖縄が抱える問題点がより際立つ。つまり沖縄で近年問題となっているのは、歴史認識やイデオロギーからは少し離れた、いわゆる〝迷惑施設〟としての米軍基地の存在の是非なのである。
その〝迷惑施設〟について、日本国土の面積の0.6%にすぎない沖縄は日本全体の約7割を引き受けている。こうした「なぜ沖縄ばかりが」という不公平感、被差別感は、「琉球処分」をめぐって生まれた過去の不公平感や被差別感につながっているようにみえる。
これに政治が絡むと、「日米安保条約廃棄」や「対米従属反対」など、イデオロギー色が強くなり、大方の沖縄県民が今、何を望んでいるのかという問題の本質が見極めにくくなる。現在の沖縄県民の大半は、こうしたイデオロギーに基づく運動について、昔に比べて必ずしも幅広く支持しているわけではないからだ。
読売新聞は2022年3~4月、本土復帰50年に際して、沖縄県と全国の双方で世論調査を行い、5月13日に発表した。
日米安保条約が「日本の安全に役立っていると思うか」という問いには、「どちらかといえば」を含めて「思う」と答えた人が、全国で87%、沖縄で67%に上った。在沖縄米軍基地が「日本の安全に役立っていると思うか」との問いには、「思う」と「どちらかといえば」を合わせると、全国で65%、沖縄54%に上り、沖縄でも半数を超えた。今や日米安保条約や在沖縄米軍基地の存在は、沖縄県内でも少なくとも過半数の支持があるのである。
大事なのは、沖縄の米軍基地に対する感じ方だ。
沖縄の米軍基地のあり方を尋ねると、沖縄では「整理・縮小し、日本本土に移設する」が最多の46%となったが、全国では27%と大きな差が開いた。
全国で最多になったのは、「整理・縮小するが、本土には移設しない」が39%。沖縄は34%だった。整理・縮小に賛同する人は沖縄、全国とも多かったが、具体的に移設先を「本土」にするかどうかで温度差がみられた。沖縄に米軍基地を「現在の規模で維持する」は、全国で27%で、沖縄の15%を上回った。
米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設計画への賛否については、沖縄は「反対」が61%で、「賛成」の37%を大幅に上回ったのに対し、全国では「賛成」が46%、「反対」が47%で、賛否が拮抗、受け止め方が分かれた。
「日米安保反対」というイデオロギー色の強い議論よりも、米軍基地の負担をどう軽減し、望ましい解決方法を探るか、という具体的な議論こそが、今の沖縄を「琉球処分」の暗い影から切り離すことにつながると考える。
むろん、一気に進む基地負担軽減策はすぐには見つからない。それでも、日本の政府や政治家は、沖縄の人々と丁寧にやりとりをし、継続的に取り組んでいくことが今後、一層欠かせなくなるだろう。同時に、この地域での中国の威圧的な行動が激化する今、米国も、沖縄に米軍基地を集中させているだけでよいのか、改めて検討するべきではないか。様々な歴史的、政治的制約があるのは理解するが、例えば台湾に基地を配置する、といった抜本的な検討が始まってもよいのでは、と考える。そのぐらいの動きになれば、沖縄の基地負担感は多少なりとも軽減されていくだろう。

