2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年8月19日

 欧州における米国の存在が低減する時にあって、更に言えば、欧州から米国がいなくなってしまう時にあって、英国、フランス、ドイツは、自分たちが欧州の安全保障の柱であるとの自覚を強めている」と欧州外交評議会のマーク・レナード所長はコメントしている。

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英独の条約にフランスの協力を明示

 7月17日、ドイツのメルツ首相の英国訪問の際、英独首脳は両国間で幅広い分野での協力を約する「友好と二国間協力に関する条約」に署名した。上記の解説記事は、これに先立つ英仏間での核戦力の運用について調整を行うとの合意(7月10日)をも踏まえて、英独仏三カ国の協力関係について書かれたものである。

 今回の英独間の条約は、全文で30条から成り、8つの章が立てられている。順に「外交、安全保障、開発」、「防衛協力」、「治安、法、移民」、「経済成長、強靱性、競争力」、「開かれた強靱な社会」、「気候、エネルギー、環境、農業」、「協力の形態」、「最終条項」であり、幅広い分野をカバーしている。

 この条約の最も重要な核の部分は何かと言えば、両国が「運命共同体」であることを宣言している点であろう。同条約第3条では、「両国の死活的な利益の緊密な同調」に言及しつつ、「一方の国の戦略的な脅威であって、もう一方の国の戦略的な脅威とならないものを想定することはできない」という表現が置かれている。そうした認識を示した上で、「両締約国は、緊密な同盟国としてお互いの防衛への深いコミットメントを表明し、一方の国が軍事攻撃を受けた際、もう一方の国が軍事的な手段を含めて支援を行う」と規定している。

 英独両国はいずれもNATOの加盟国であるので、NATO第5条の集団防衛義務(加盟国の一つに対する武力攻撃を全加盟国に対する攻撃とみなし、攻撃を受けた加盟国を援助するため、個別的または集団的自衛権を行使して、兵力の使用を含めて必要と認める行動を取る)が課されているので、これは追加的な防衛義務を約束するものではないが、両国の繋がりの強さを改めて示そうとする意図であろう。

 興味深いのは、この条約が英独間の二国間条約であるにもかかわらず、フランスとの協力について明示的に言及していることである。「両締約国は、フランス共和国との三角協力を強化するよう努める」(第2条)と規定されている。英独仏の「三角同盟」の構築が意識されていると思われる。


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